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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
506/621

episode 501 「ゼロとルーチェ」

「フェンリー、ジャック、お前たちは彼女らを村まで護衛してくれ。俺とケイトはこの女についていく」

「ああ、わかった。気を付けろよ」



フェンリーとジャックに捕虜たちを任せ、ゼロとケイトはルーチェについていく。



「あなた、ゼロよね?」

「ああ」



ほっと胸を撫で下ろすルーチェ。



「レイアは、ぶじなの?」



ケイトの質問にまたルーチェの顔が険しくなる。


「分からないわ。レイアは兵士に連れていかれてしまったから」


ゼロは苦い顔をする。


「急ぐぞ」

「え、え!!?」



ゼロはルーチェをひょいっと脇に抱え上げる。男に体を触られたこともないルーチェは、取り乱してゼロの体をぼこぼこと殴り付ける。



「……何をしている」

「あなたが何をしているのよ!」



その様子をやれやれと首を横に降りながら呆れるケイト。


「相変わらずで、安心した」




ルーチェは前方と、後方のゼロを警戒しながら元来た道を駆けていく。前方よりも後方のゼロの方が気になるようで、何度も後ろを振り向いている。


「何だ。何か問題か?」

「問題が起きないようにしているのよ!」


顔を赤らめながら答えるルーチェ。



ルーチェの体力はかなり消耗していた。だがそれ以上に消耗していたのは精神力だ。いままで命のやり取りなどしたことも考えたこともなかった。しかし今ルーチェはその渦中にいる。一歩間違えればあの世へ直行だ。それは自分に限った話ではなく、自分の大切な人たちまでもをその対象にしてしまっている。自分が解放されたと知ったら、きっと父である団長は全力で村に攻撃を仕掛けるだろう。そうなれば戦いは避けられない。戦いが起きれば当然血が流れる。



(なぜ、争わなければならないの? なぜ、分けあえないの?)



争いが理解できないルーチェ。ルーチェだけではない、争いの意味を理解している人間など誰一人として存在しない。争いに意味など無いのだから。


それでも戦わなければならない。奪わなければならない。生きるために他人を蹴落とさなければならない。




(そんな仕組み、絶対に間違っている)






歯を食いしばるルーチェ。たとえどんな理由があろうとも、たとえなに一つ理由がなくとも、レイアが傷ついて良いはずがない。








「何! 捕虜たちが逃げ出しただと!!」


知らせを聞いた隊長が思い切り机を叩いて立ち上がる。


「はい。なんとか番兵は命をとりとめましたが、一人を残して全員行方不明です」

「一人……だと?」



副官の報告に眉間にシワを寄せる隊長。


「はい。例の兵士がレイア・スチュワートをとらえています」


それを聞いて隊長は再び腰かける。



「ならばレイアを必ず死守しろ。彼女さえこちらに居ればゼロは手を出せない。他のやつらなどどうとでもなる」

「では急いだ方がよろしいかと……」



副官は窓の外を指差す。そこにはたくさんの器具を両手に抱えた兵士の姿があった。顔を青ざめる隊長。



「すぐに兵士を捕らえろ! レイアに手を出させるな!」


部下たちに指示をだし、兵士を捕らえさせる隊長。やがて連れてこられた兵士は明らかに不満を顔に現していた。



「何のつもりですか? 俺は忙しいのですが」

「レイアに手出しは許さん。やつは貴重な人質だ」



隊長の真剣な顔を見て思わず笑い出す兵士。


「まさかそのゼロとやらを恐れているのですか? 噂には聞いていますよ。帝都でローズ大佐に殺されかけたと。その程度の実力なら我々が束になれば余裕で倒せるでしょう。なんなら俺一人でも構わないくらいですよ」



鼻で笑う兵士。



「そのローズとやらのことは知らんが、ゼロを甘くみるんじゃない。やつの目、雰囲気、殺気、そのどれもが規格外だ」


冷や汗を流しながらゼロの危険度を説明する隊長。しかし兵士は全く聞き入れない。


「なら約束してください。俺がそのゼロとやらを倒したらレイアに何をしようと目をつぶると」

「……約束しよう」


隊長の返事を聞くと、兵士はにっこり笑って村の入り口へと歩いていく。




「よろしいのですか? 帝国で大佐だったかどうか知りませんが、あの男一人では良くて相討ちです」


副官が頭を抱える隊長に話しかける。



「仕方がない。この村で一番の戦力はやつだ。それに相討ちならなんの問題もない」



隊長はいい加減邪魔になってきた兵士を見送りながら答える。




兵士はルーチェの村へと出発した。隊長の話だと、ゼロはそこへ戻っていったらしい。もしかしたら脱走した捕虜たちもそこに隠れているかもしれない。



「さてさて、一石何鳥になることやら」



指を折りながら想像にふける兵士。戻ったあとの事が楽しくて仕方がない。



(レイアは久しぶりの大物だ。元貴族の内側がどうなっているか、じっくり観察させてもらおう)




下品な考えに頭を巡らせていると、こちらに向かって走ってくるルーチェの影をとらえる。


(あれは教会に居た女だな。たしか名前はルーチェ……ん?)


ルーチェの後ろからはゼロとケイトの姿も見える。



(やつがゼロか? しかし仲間がひ弱な女とガキとは……よっぽど俺たちをなめているとみえる)




剣を抜く兵士。ルーチェもようやく兵士に気がついた様だ。


「あの男は!」


兵士の存在に足が止まるルーチェ。あの時の恐怖がよみがえってくる。



「やつがレイアを連れていった男か」


ゼロの質問になんとか首を縦にふるルーチェ。


「なるほどな……」



強烈な殺気がゼロから放たれる。それは兵士の比ではなく、さらにルーチェは震え上がる。



それを見たケイトがゼロの前に出る。


「ケイト?」

「私が、いく」





ケイトは一人で兵士の元へと進んでいく。



「なんだ? おちびちゃん」



兵士の第一声に早速怒りが込み上げるケイト。



「あなたが、レイアを拐ったって、ほんと?」

「ああ、本当だ。なんならお前もペットにしてやろうか」



自分よりも一回りも二回りも小さなケイトに完全になめてかかる兵士。



「ううん、ペットになるのは、あなたのほう」

「は?」



次の瞬間、兵士の体はロープでぐるぐる巻きになり、身動き一つとれなくなっていた。



「は、はぁ!?」



あまりの速い出来事に何が起きたのかまったく理解できない兵士。その兵士に、怒りが頂点に達したゼロがゆっくりと近づいてくる。




「さて」




その一言で兵士は自分の過ちをようやく理解した。




「ここで八つ裂きにされるのと、レイアの場所まで案内したあと八つ裂きにされるのと、どっちが良いか選ばせてやる」




兵士の口に銃口を突っ込みながら質問するゼロ。兵士はここで自分に待っている運命が死のみだと悟った。











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