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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 499 「平和な苦しみ」

ルーチェは自分がどれだけ臆病者なのかということを思い知っていた。レイアが居なくなっても立ち上がることすら出来ない。立ち上がったところで何もできなかったかもしれない、殺されていたかもしれない。今できることは後悔くらいのものだが、あのとき立ち上がれば救えたかもしれない。



(私にもっと力があれば……いえ、力はあったはず。相手はたった一人の兵士。私のこの力を使えば……)



ルーチェは拳を握りしめる。



「今からでも、遅くは無いわよね」


ルーチェはようやく立ち上がる。門番は兵士が去ったことで気が抜けてしまっているのか、こちらを気にしている様子はない。ルーチェは隠し持っていたフォークをスカートの中から取り出す。


兵士に気がつかれないように慎重に進んでいき、そしてよそ見をして居る兵士の背後からフォークを突き刺すルーチェ。しかし殺気が漏れ漏れのルーチェの攻撃が通用するはずもなく、簡単に避けられ、突き飛ばされてしまう。



「きゃ!」

「色仕掛けの次は背後から襲いかかって来るとはな。とことん卑怯な女だ」



番人は剣を抜き、ルーチェの胸元に当てる。



「どこにそんなもの隠していた? ここか? ん、それともここか?」



胸元からスカートの方へと剣を這わせていく。だが、その下卑た2つの目は直ぐに白目を向いてルーチェの目の前から消えた。


門番とはいえまだまだ未熟。他のことに気をとられていては殺気など感じられない。


ルーチェに覆い被さるようにして倒れた男の背後からは他の拉致された人々が顔を現した。ルーチェ同様に皆何かしらを隠し持っており、そのうちの一人が持っていた瓦礫が男の頭を捉えたのだった。



「あなた、そんなもの何処に……ってそんなことはどうでも良いわね」



ルーチェを先頭にして捕虜たちは一斉に教会から逃げ出した。






レイアが兵士に連れていかれた先は教会とは比べ物にならないくらい清潔で快適な小屋だった。生活に必要な設備も一通り揃っており、なに一つ不自由は感じられない。



「どういうおつもりですか?」


兵士に尋ねるレイア。


「なに、お前のような度胸のある人間をあそこで殺すのは惜しいと考えてな。ここで俺が飼うことにする」



兵士は鍵もかけずに小屋から出ていく。


「良い忘れていたが俺はペットに首輪をつけるのが嫌いだ。逃げ出したければ逃げるが良い。だが、お前が逃げた場合は別の人間をペットにする。ちょうど何人も捕らえていることだしな」


レイアの苦痛な表情を見届けると兵士は本当に姿を消した。






「良かったのですか? レイアにせよルーチェにせよ殺してしまえば人質の意味が無くなりますが」


副官が隊長に尋ねる。


「バレなければかまわない。それにそうはならないだろう。遣わせたのはあの男だからな」


隊長が答える。





レイアは窓ガラスから外を覗く。特に視界が遮られている訳でもなく、眺めも快適だ。あの男が関わっていないならここに住みたいとすら思える。仮に自分が逃げ出し、他の者が捕まったとしても特に問題はないのでは? そんな考えすら浮かんでくる。しかし兵士は自分のことをペットと呼んでいた。この先一体どんな仕打ちを受けるのか想像も出来ない。




「しかし、あの男は帝国の軍人だったのでしょう? それがなぜこんなところに?」

「なんだ、お前は知らなかったのか」


不思議な顔をしている副官に、もっと不思議な顔で答える隊長。



「あの男は極度の変態でな、気に入った女がいれば無理矢理理由をつけて拐い、死ぬまで自分の側に置く。そして女の自由を奪って自分に依存させるのが大好きなサド野郎なのさ」






兵士は直ぐに戻ってきた。持ってきたのは小さな皿と猫用のトイレだった。それを見て辺りを見渡すレイア。一見何でもありそうな小屋だが、確かにあるべきはずのものがいくつか見当たらない。兵士が持ってきたのはまさにそれだった。



「まさか、そこでしろということですか?」


恐る恐る男が設置しているトイレを指差しながら質問するレイア。すると男はきょとんとしながら笑い出す。



「ははは。お前は何を言っているんだ? 当たり前じゃないか。トイレで用を足すペットを見たことがあるか?」



レイアは戦慄した。かつてここまで無邪気な笑顔を見せながら狂気じみたことを言われたことは無かった。



兵士は持ってきた小さな皿に、水と固形の食料を注ぐ。ペットフードでは無いようだが、食欲は一切わいてこない。



「環境が変わるのは大変だろう。だが慣れてもらわなければ困る」


男はかごを取り出す。



「次来るときまでにここに服を入れておけ。散歩の時以外は常に裸でいるんだ。それがペットだろ?」



再び男は小屋を出ていく。逃げ出すのならチャンスは今しかない。



「逃げなきゃ……」



扉に手をかけるが、開くことが出来ない。あと少し、あと少し力を入れて足を踏み出せばここから出ることができる。が、手にも足にも力が入らない。




「助けて……ゼロさん」



レイア力にならない声で呟いた。







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