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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 498 「ルーチェ」

ゼロという人物について、団長の娘は非常に興味を引かれていた。この目の前の少女をここまで輝かせる人物が一体誰なのか、もし自分も会うことができたなら何か変わるのではないか、そんな期待と希望が湧いてくる。


少女はレイアが来るまで本気で自殺を考えていた。永遠に続く絶望から逃れるためにはそれしか無かったのだ。しかし実行に移すだけの勇気も度胸もなく、惨めに小さく震えることしかできなかった。



「私の名前はルーチェ。光って意味よ。似合わないでしょ」


レイアに手を差しのべて欲しかった。その為に、まず自分から手を差し出した。そうすればこの少女は必ずそうしてくれると信じていた。




「わたくしはレイア。ルーチェさんですか、とっても可愛らしいお名前ですね」




手は差しのべてもらえた。おまけに最高の笑顔も向けてもらえた。顔が赤くなるルーチェ。嬉しくて泣き出しそうだ。


「どうしたのですか?」

「何でもないわ。ありがとう」


レイアにつられて自然と笑顔になるルーチェ。それから二人は時間が許す限り互いのことを話し始めた。


拉致されるまでは村から出たことがなかったルーチェ。そのルーチェにとってレイアのこれまでの旅はとても興味深かった。特にゼロとの恋の話は顔を近づけてよく聞いてきた。





「ええ! キスしたの!? どんなだった!? 味は!?」

「ちょ! 大きな声を出さないで!!」



予想以上のリアクションを見せるルーチェに対して、それ以上の声を張り上げるレイア。案の定兵士が駆け寄ってくる。



「何事だ!」


するとルーチェはブラウスの胸元を少し開きながら媚びた表情を見せる。


「何でもないわ」

「そ、そうか」



兵士は顔を反らしながら足早に去っていった。




「だ、大胆なのですね……」


大きく開いた胸元に釘付けになりながら呟くレイア。


「レイア、あなたの彼には使ってないの?」

「使ってません!!」




二人はあっという間に仲良くなった。それどころか他の捕らえられていた人々もいつの間にか二人の周りに集まっていた。レイアの明るい性格と、ルーチェの冷静かつ大胆な性格は捕らえられていた人々の心を開いていった。



それに対して面白く思わない人物が居た。この教会を支配下に置いている隊長だ。彼は非常に用心深い性格であり、たとえ力なき女子供であっても容赦はしない。彼女たちの心が一つになるのだけは避けたい。一人一人は非力でも、全員で力を合わせればあの場の兵士ぐらいは突破できるかもしれない。わずかな可能性だが、そのかもしれない事態こそ隊長の恐れるものだった。あそこに捕らえられているのは全員敵対している村や人物の関係者だ。人質を用意しているからこそこの村は優位でいられる。もしその全員が逃げ出したのだとしたら、その関係者の全員から報いを受ける。そうなればこの村など簡単に滅ぼされてしまう。



「仕方がない……やつらの内の何人かを別の場所へ移送する。管理が少々面倒だが、事が起きてからでは取り返しがつかない」



隊長は部下に指示を出す。



「それとも誰か見せしめにでもしておくか……」




隊長の指示を受けて部下が教会にやって来た。部下といってもかなりランクの高い人物のようで、その男がやって来ると、教会の兵士たちの雰囲気も変わる。



「この騒ぎの中心にいる人物は誰だ」

「は! あの二人であります!」



質問された兵士はレイアとルーチェを指差す。



「よし、お前たちの内のどちらかを見せしめに処刑する」


男は剣を抜き、レイアとルーチェの前に立つ。他の捕虜は慌てふためき、悲鳴をあげている者も居る。ルーチェも恐怖で声がでない状況でなければそうしていただろう。しかしレイアは一切臆せず、ただ兵士を見つめている。



(この子……こんな状況でも)


ルーチェの抱いていた感想は勿論、その兵士も抱いていた。



「女、名は?」

「レイア・スチュワートです」


兵士の剣がピクリと動く。



「スチュワート……たしか四大貴族のひとつだったな。なぜそんなお嬢様がこんなところに?」


兵士の言葉に驚くルーチェ。たしかにレイアの物腰は庶民のそれでは無かったが、そんなに有名な家の出だとは思っていなかった。だが、貴族と言うだけではこれだけの気迫は醸し出せない。



「あなた方が連れてきたのではないですか。用が無いのでしたら解放してください。もちろん、全員をです」



レイアの対応に他の捕虜たちも徐々に落ち着きを取り戻していく。兵士も剣を収め、じっくりとレイアを観察している。



「なるほど、確かにお前が原因のようだ。良いだろう」


兵士はレイアの腕を無理矢理つかみ、引っ張っていく。



「な、離してください!」


必死に暴れるレイアだが、当然兵士の力には抗えない。



「貴様ら、抵抗しても良いんだぞ?」


兵士は呆然とする捕虜たちに声をかける。だが、捕虜たちはその場から一歩も動けない。



「腰抜けどもが……」


兵士はそう呟くと、より一層強くレイアを引っ張っていく。




(動け……動け……動け!)


ルーチェは必死に自分に言い聞かせ、完全に抜けてしまった腰を動かそうとする。



(レイアが……光が!)


今動かなければレイアが連れていかれてしまう。せっかく見つけた希望が奪われてしまう。



(待って!! 今……行くから!)



ルーチェは自分に言い聞かせ続けた。それは兵士とレイアが居なくなってもしばらくの間続いていた。














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