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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 497 「ケイトとジャック」

「ゼロ……」



ケイトはその後入ってきた本物のゼロの顔を確かめ、その懐に飛び込む。ゼロもケイトを受け入れ、その小さな頭を撫でる。



「無事で良かった。本当に心配していたんだぞ?」



一番欲しかった言葉がケイトに投げ掛けられる。


「うん、うん、ごめんね」


ケイトはおもいっきりゼロに甘え、止めどなく溢れてくる涙を彼の服に押し付けていく。




「と、トイレ……」

「おいおいそこですんじゃねーぞ!?」



フェンリーは外で倒れているジャックを小屋の外に設置されているトイレへと運び込む。







「ふー! なんとか俺の膀胱は耐えてくれたぜ!」


苦難をのりきったジャックが再びケイトの小屋へと足を踏み入れる。ジャックの登場に、紅茶を口に運ぶケイトは露骨に嫌な顔を見せる。彼の存在を完全に無視し、ゼロに寄り添って事情を聞いている。



「そう、レイアが……でも、みんな生きてて、良かった」


レイアが囚われていることに嘆きつつも、大切な人たちが生きていてくれたことに素直に喜ぶケイト。ただ心残りがあるとすれば、それは自分の村やおばあちゃんを襲ったエクシルが勝手に死んでしまったことだ。なんとしてでも自分で決着をつけたかった。


「それでいいんだ。復讐は何も生まない」


複雑な表情のケイトを撫でるゼロ。



「でも、私はこれから、どうすればいいの?」

「それは自分で見つけるんだ。お前の人生だからな」



一見突き放したようなゼロの言葉はケイトの心に突き刺さる。



「なら、私はレイアを助けたい」



ケイトはゼロから体を離し、ゼロの目を見つめながら答える。ゼロは再度ケイトの頭を撫で、ケイトに目線を合わせる。



「ああ、よろしく頼む」


その言葉にケイトは満面の笑みで答えた。




こ、コホン。


良い雰囲気の二人をジャックの咳払いが邪魔をする。



「みずさして悪いけどよ。どうやってレイアを救出すんだ? 正面突破か?」


ずかずかと話しかけてくるジャックを汚いものでも見るかのような目線で睨むケイト。



「さっきから、何でそこに居るの? そもそも、誰?」



ケイトはジャックをまったく知らない様子だ。その言葉にジャックは驚いた表情を見せ、身をのりだす。



「おいおい忘れちまったのか!? 俺だよ、ジャックだよ! 会ったことあるだろ!?」

「無い」



はっきりと答えるケイト。確かにケイトにその記憶は無かった。だがこの胸を抉られるような不快な感覚は過去にも味わったことがあった。その時の記憶が徐々に甦ってくる。



「ちび、ちんちくりん、お子様、ガキ、絶壁……」



過去に言われて嫌だった言葉がどんどん脳裏を駆け巡る。それと共に目の前の軽そうな男の顔も思い出してくる。


「おいおいそんな酷いこと言ったのかよ」


似たようなことを口にしていたフェンリーがジャックを横目で睨み付ける。



「言ったっけ? まあ、過去の事は水に流して仲良くしようぜ!」


優しく手をさしのべるジャック。それに対してケイトはその手にペンを突き刺そうとする。鋭利なペン先がジャックの手のひらを襲い、寸でのところでそれを避けるジャック。



「ぎゃあ! おまえそれシャレになんねぇ!」

「うるさい、私の心は、もう傷つけられている!!」



ペンを両手に持ちながらジャックを追い回すケイト。それをベッドに腰掛けながら眺めるゼロとフェンリー。



「おいおい! 見てないで助けてくれよ! このガキ俺を殺す気だ!」

「おまえが悪い」



ジャックの必死の訴えもゼロには届かない。ケイトのスタミナが切れるまで永遠にそれは続いた。







その頃、大きい村で囚われていたレイアは少しばかりのスープを口にしていた。自分が囚われているからか、それとも本当に貧しいのか、出されたスープはとても薄くて具材も入っていなかった。



辺りを見渡すレイア。どうやらここは古い教会のようだ。手足が縛られているわけではないが、入り口は兵士が固めており出ることが出来ない。


自分の他にも数名囚われているようだ。そのうちの一人が話しかけてきた。



「あなたはどうしてここに?」


スラッとした美しい女性だった。黒い艶々の髪をなびかせており、ここに来てからまだそれほど時は経っていないと思われる。



「ある人を動かせる為の人質です。あなたは?」

「そうなんだ。私も似たようなものかな。ある村の自警団の娘なの」



そう答えた女性の顔はどこかで見覚えがあった。間違いなくあの村の団長の娘だ。複雑な気持ちのレイア。この女の子に恨みは無いが、彼女の父親には仲間に毒を盛られている。



「そうですか……わたくしたちはどうなるのでしょう」

「わからないわ。でもこの村も餓えに悩まされているから、食料が尽きかければ真っ先に私たちは切り捨てられるでしょうね」



味のしないスープの皿を見つめながら答える女性。よく見れば体がブルブルと震えている。考えても見れば敵対している村に捕らえられ、逃げ出せる希望もないのだ。いつ殺されてもおかしくない状況下で冷静に居られる筈はない。他の捕らえられている人たちも同様に恐怖している。きっと彼女がレイアに話しかけてきたのは、レイアだけが怯えるそぶりを見せていなかったからだろう。何か逃げ出す糸口を掴んでいるのではないかと考えていたに違いない。



「どうしてあなたは冷静で居られるの?」


その質問にレイアはにっこりと笑顔を見せる。




「ゼロさんが来てくれると信じているからです!」




薄暗い教会の中で、女性は確かに光を見た。



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