episode 48 「前へ」
ローズが会議から戻ると、屋敷の中は騒然としていた。レイアがまた抜け出したのだ。
「なぜ抜け出す必要がある。真実は伝えたはずだぞ。」
ローズは頭を抱える。
「リザベルトはどうした。まだ戻らないのか。」
使用人に尋ねるローズ。
「はい、レイア様がお戻りになられたことはお伝えしたのですが。」
「いったい何があったのだ。」
レイアはイシュタルの小屋を訪れていた。扉を開けるイシュタル。
「あ、あの、ゼロさ、リンさんに会わせていただけませんか?」
イシュタルはレイアを見つめる。
「すまんがお引き取り願おう。」
小屋に戻ろうとするイシュタルの裾を引っ張るレイア。
「・・・離しなさい。女性だからといって容赦はせんぞ。」
僅かに発せられた殺気にあてられ、手を離してしまうレイア。扉が閉められたあともレイアはそのまま立ち尽くした。
「お願いします。わたくし、こんな別れ方嫌です。わたくしが、何をしたというんですか!こんなことってないです!」
扉を叩きながら涙混じりに訴えかけるレイア。
「あの声、この間の女性ですよね?泣いているのでしょうか?」
リンがイシュタルに問いかける。
「下がっていなさい。」
イシュタルは一言リンに告げ、レイアから遠ざける。
駆けつけてきたローズがレイアの肩を叩く。その手を弾くレイア。
「触らないでください!こんな気持ちになるならあの時、殺されていればよかった!」
パチン!
思わずレイアの頬を叩いてしまうローズ。
「済まない、だが。」
ペチン!
ローズの頬を叩き返すレイア。
「みんな嫌いです!」
どこかへ駆け出すレイア。ローズは追いかけることができなかった。
「すまない。レイア、ゼロ。」
涙を散らしながら走るレイアを見かけるケイトとモグラ。
「レイアだ!追いかけよう。」
モグラの方を見るケイト。だがモグラは既にレイアを追いかけていた。ムッとするケイト。
「先に気づいたのは、私!」
石につまずき、転びそうになるレイアを受け止めるモグラ。
「何で泣いている。誰が泣かせた。」
モグラは心配そうにレイアの顔を覗きこむ。追い付いたケイトはなんとなくその理由がわかったが、だからこそ安易な言葉を掛けられずにいた。
「お二人ともこれまで、ありがとうございました。感謝してもしきれません。でも、もう終わったんです。もう、わたくしは立ち上がれません。」
また泣き出してしまうレイア。
「レイア、ゼロはまだ生きてる。」
レイアの背中をさするケイト。
「あれはリンさんです!ゼロさんじゃありません!」
泣きじゃくるレイア。
「でも、ゼロだよ?」
「わたくしのことを全く覚えていないではないですか!」
「泣いてても、しょうがない。記憶を取り戻す方法を、さがそう。」
「そんな方法はありません!いい加減にしてください!これ以上わたくしを苦しめないで!」
「いい加減にするのはレイアの方!」
モグラもビックリするほどの怒鳴り声をあげるケイト。レイアも泣き止む。
「悲しいのはレイアだけだと思ってるの?私だってゼロが好き。私だって悲しいんだよ!自分ばかり悲観にならないでよ!」
感情を吐き出すケイト。
「それでも私は諦めずゼロを探すレイアがいたから頑張れたんだよ?なのに記憶を失った程度でなに諦めてるの!私は諦めない!一人でも方法を探す!ウジウジしていたいなら勝手にして!」
ケイトはポカンとするモグラとレイアを置き去りにして、イシュタルの小屋の方へと歩き出す。
モグラはレイアを立たせる。
「そんなことを言われても、わたくしは、どうしたらいいのか。」
「そんな顔をするな。涙をふけ。やることは決まっているだろ。前を向け、挫けるな、諦めるな。おらの嫁さんだろ。」
モグラは小さなレイアの両肩に手を置く。モグラの真剣な顔が一瞬、似ても似つかないゼロの顔に見えてしまい、思わず吹き出すレイア。
「フフ、モグラさん、ありがとうございます。でも、嫁じゃないです。」
「今はだ。はやくゼロとやらの記憶を取り戻せ。はやく勝負させろ。そしてはやくおらと結婚しろ。」
レイアは涙をふき、再び前を向く。そして先を行くケイトを追いかけるのであった。




