episode 44 「ニコルとケイト」
八時間後、汽車は問題なくサンバーン付近の駅に到着した。駅員にお礼を行ってサンバーンへと向かう。モグラは未だ熟睡中で全く起きる気配がなかったので、駅員に任せ二人で向かうことにした。
サンバーンに到着すると以前の露店の男が話しかけてきた。
「よお、久しぶりだな。ゼロはどうした?」
「ゼロさんは今、別の用事で一緒にはいないんです。」
レイアがはぐらかす。
「そうかぁ、もう一度お礼が言いたかったんだがな。もちろんケイト、君にもだ。サンバーンを救ってくれて本当にありがとう。」
男は深々と頭を下げる。照れるケイト。
「私は、ゼロについていっただけ。お礼は、私からゼロに、伝えておく。」
もじもじしながら答えるケイト。
岩場には明日向かうことにして、宿をとる二人。
「やっぱりゼロさんは悪人ではないです。こんなにたくさんの人を救ったんですから。ローズやリースさんの勘違いです。二人にはきちんとゼロさんに謝ってもらわないと!」
プンスカしてしゃべるレイア。
「でも、よかったの?あの人に嘘をついて。手伝ってもらった方が、よかったんじゃ。」
ケイトの問いかけに首を振るレイア。
「あの人まで巻き込む必要はありませんよ。ニコルさんに期待しましょう。」
次の朝、二人は盗賊の岩場を目指してサンバーンを出発した。
相変わらず地形はでこぼこだが、以前とは違い盗賊たちの姿はなかった。程なくして岩場に到着する二人。岩場の中にも盗賊たちの姿はなかった。
「拠点を変えてしまったのでしょうか?」
「案外全員、捕まったのかも。」
不安そうなレイアに軽口を叩くケイト。よっぽどニコルのことが嫌いらしい。
仕方なくその場を後にしようとした二人に声をかける者が。
「あら?レイアにケイトじゃない?どうかしたのかしら?」
うげぇ、と嫌な顔をするケイト。声の主はニコルだった。レイアも緊張しているようだ。
二人から話を聞く前にゼロがいないことに気付き、何かあったことを悟るニコル。詳しく話を聞き、それは確信へと変わる。
「そう、そんな事があったのね。まさかゼロ君が負けるとはね、そのローズとかいう兵士はよっぽどの美人なのかしら?」
「・・・ゼロは、自分から攻撃を、受けた。・・・気がした。」
ケイトの曖昧な返事を受けてレイアの方を見るニコル。
「その話が本当ならきっとそれはレイアのためでしょうね。」
驚くレイア。
「わ、わたくしですか?」
「ええ、だってゼロ君が命を懸ける事なんて、あなたの事以外考えられないもの。」
ニコルは少し残念そうにレイアに微笑みかける。ドキッとするレイア。それは決してニコルの術にかかったからだけでは無いだろう。
「で、盗賊たちは?」
ケイトが訪ねる。
「盗賊団はあのあとすぐに解散させたわ。なんだか虚しくなっちゃって。彼らをあてにしてここまで来たのならそれは残念だったわね。」
「そうですか・・・」
うつむくレイア。それを見てニヤリと笑うニコル。
「なんてね。やつらはまだ私の術中だから呼べばすぐにでも群がってくるわよ。」
笑顔になるレイア、苦虫を噛み潰したような表情のケイト、そしてニコルは強く念じる。
野郎共!全員集まれ!
しばらくして男たちが集まってきた。その数は徐々に増し、明らかに以前よりも多くなっていた。
「こ、こんなにいらっしゃいましたっけ?」
驚きと恐怖が混在するレイア。
「そうだったかしら?モノにした男の数なんていちいち覚えてないから、わからないわよ。」
得意気なニコル。
「とにかく!これでゼロさんを探せますね!ありがとうございます!」
「何か勘違いしているようだけれど、私はゼロ君を探すだなんて一言もいってないわよ?」
ルンルン気分のレイアに不敵な笑みを浮かべるニコル。急いでロープを構えるケイトだったが、すぐに男たちに取り押さえられてしまう。
「やっぱり、お前嫌い。」
「奇遇ね、私もよ?」
レイアの方を見るニコル。
「やっぱりねぇ、私あなたたちの事を好きになれないの。ゼロ君の事は残念だけれど、むしろチャンスとしてとらえることにするわ。安心して、殺したりはしないから。ただちょっとだけイタズラさせて頂戴?」
青ざめるレイア。恐怖で声を出すことも出来ない。
男たちの手がレイアに忍び寄る。
ドゴーン!!
岩場の入り口で大きなおとがした。
「女だ。それもすげぇべっぴんさんの匂いがする。どこだ。どこにいる。」
「モグラさん!」
現れたのはモグラだった。モグラはレイアが襲われているのを一目見るなり、男たちに向かって突撃する。
「おらの未来の嫁さんに何してる!」
吹き飛ばされる男たち。ニコルは下唇を噛み締める。
「ゼロ君の次はこの毛だるまってわけ?相変わらずイライラさせる娘ね。」
ニコルは男たちをモグラに差し向ける。モグラはそれをいともたやすく退ける。
苛立つニコル。
「ずいぶんと腕がたつようね。さぞ素晴らしい手駒となってくれることでしょうね。」
「モグラ!目、見ちゃダメ!」
とっさにケイトが叫ぶが、既に時遅し。モグラはニコルの虜となってしまう。
「ふふ。さあ、これであなたは私の奴隷よ。手始めにケイトでも襲ってもらおうかしら。」
「くっ!」
ケイトは逃げようとするが、男たちに捕らえられ、身動きがとれない。
モグラはケイトの方を向く。しかし、ケイトの平坦な胸を見てすぐに視線をニコルへと移す。
「ちょっとあなた、ケイトはあっちよ。ってなにしてっやめなさい!」
ニコルへと飛びかかるモグラ。男たちはそれを守ろうとするが、誰一人としてモグラを止めることはできなかった。
「やれ!モグラ!ひんむけ!」
少々複雑な気持ちながら、ニコルがやられているのを楽しむケイト。
「ちょっと!もう術は解いたわ!この毛むくじゃら何で離れないのよ!」
モグラは離れる気配がない。不憫になったレイアが助けに入ろうとするが、それを止めるケイト。
「ケイトちゃん、気持ちは解りますけれどちょっとかわいそうです。」
「レイア、お人好しすぎ。それに、これは作戦!」
そう言ってケイトはニコルに叫びかける。
「ニコル!助けてほしければ、私たちとゼロを探して!」
「ふざけないで!何でこの私があなたに命令されなくちゃいけないのよ!」
モグラにもみくちゃにされながらもニコルは意地をはる。
「そう、じゃあ私たちは帰る。」
ケイトはレイアの手をとり、帰ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って!わかった、わかったわよ!」
慌ててニコルが叫ぶ。ケイトがレイアの手を離すと、レイアはモグラの元へと走る。
「モグラさん!もうやめてください!」
レイアの声を聞いて我にかえったのか、モグラの動きが止まる。
「ん、嫁さんの声がしたな。」
「嫁じゃありません!」
くしゃくしゃにされたニコルをみて満足そうなケイト。
「約束。一緒に来て。」
「・・・覚えてなさい。」
新たな仲間を迎えて、旅は続く。




