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スティールスマイル  作者: ガブ
第二章 モルガント帝国
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episode 43 「汽車」

ここは、どこだ。僕は、誰だ。


一人の青年が目を覚ます。小さな小屋のベッドの上だ。青年は記憶が無いようで、自分の名前すら思い出せない。だが不思議と恐怖はない。心は安らぎ、幸せすら感じていた。ただ何か大事なことを忘れていた。それは名前とか、これまでの人生とか、そんなことではなく、もっと大事な何かを。







モグラの家は炭鉱をくりぬいただけの質素なものだった。あるものといえば様々な鉱石だけ。石炭も山のようにあった。モグラに事情を説明し、石炭を分けてもう。


「好きなだけもってけ。と言っても持っていくのはおらだ。お前たちじゃとても運べそうにないからな。」


二人の細い腕を見てモグラが言う。


モグラの手当てのお陰で、ケイトの肩を借りればなんとか歩けるようになったレイア。三人は駅を目指す。


「おら、外に出るのは三十年ぶりだ。やっぱり外は眩しすぎる。」


モグラは目を両手で覆う。立ち止まってしまい、全く動こうとしない。



「早く!」


ケイトが急かすが効果はない。ケイトはモグラを置いていこうとするが、レイアに肩を貸しながら石炭を運ぶのは不可能だ。仕方なく先に駅へと向かう二人。



「おお、無事だったか。で、石炭は手に入ったか?」


二人に気づいた駅員が声をかけてくる。事情を説明するケイト。



「モグラ!懐かしい名だ。あいつまだあそこに住みついていたのか。」



駅員は驚きと懐かしさを含んだ笑顔を見せる。


「知ってるの?」


「ああ、俺とあいつは元軍人でな、昔はよく一緒に無茶したもんだ。そして俺は汽車に、あいつは鉱石にとりつかれてな、今に至るってわけさ。」


駅員はサングラスを差し出す。


レイアを駅舎に置いて、モグラの元へと向かうケイト。


(モグラって、本名だったんだ)



モグラはまだ同じ位置でうずくまっていた。モグラにサングラスを投げつけるケイト。


「なんだこれは?」



それを拾い、珍しそうにいじるモグラ。



「かけて。」


疑いながらもそれをかけるモグラ。するとあれほど眩しかった世界が炭鉱の中と同じように、優しい明るさでモグラの目にうつった。


「こ、これは凄い。こんなものがあったとは。」


感動するモグラ。ケイトはドンドンと足踏みをする。


「早く!」


するとモグラはケイトをひょいっと抱えて全速力で走り出す。


「ふははは!快適だ。」


ご機嫌のモグラ。ケイトはバタバタと暴れる!




「またっ!はなせ!どこさわってる!」


ケイトの抵抗むなしく、モグラの手と足は止まらない。


あっという間に駅につく二人。駅員と三十年ぶりに顔を合わせご機嫌なモグラと、居心地の悪いモグラの肩で絶妙な揺れにやられグロッキーなケイト。



石炭は十分足り、すぐに出発できるとの事だ。


客室に乗り込む三人。ケイトは勿論の事、レイアも初めての汽車にワクワクが隠せない。モグラは落ち着かないのか、客室を行ったり来たりしている。


サンバーンまでは十時間ほどかかるらしい。汽車内に娯楽施設などはないが、トイレ、寝室、シャワールーム等は付いており、不便は無さそうだ。おまけに三人だけの貸しきりで、至極快適だった。モグラのうろうろを除けば。


レイアとケイトは一部屋の客室に鍵をかけてそこでおしゃべりを楽しんだ。モグラは時折こちらの様子を伺ってはいたが、鍵を壊してまで入ってこようとはしなかった。



「なんだか申し訳ない気もしますね。」


モグラを締め出してしまっていることを気にやんでいる様子のレイア。


「しない。きっと襲われる。」


ケイトはモグラをずいぶんと警戒しているようだ。



「本当に色々なことがありましたね。」


レイアが改まってケイトに話す。


「わたくし、ゼロさんとケイトちゃんに会えて本当によかったです。これからもずっと一緒に居てくださいね。」


優しく微笑みかけるレイア、こそばゆいケイト。


「そんな事言われたら、恥ずかしい。それに、ずっとは無理。私だって、いつか結婚するし。」


自分で言ってて恥ずかしくなるケイト。フフフと笑うレイア。大の字になって寝ているモグラ。三人をのせた汽車はゆっくりと進む。




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