episode 40 「最期」
帝国軍の軍服は白地にそれぞれの階級を表すストライプが入っている。
一等兵、二等兵は白
伍長、軍曹、曹長は赤
尉官は緑
佐官は青
海岸に向けて一人の女性が歩いている。警備中の兵士はその女性を発見して慌てて止める。
「こちらはただいま封鎖中です!危険ですので関係者以外お引き取りください!」
「あら、一応私も関係者なのよ?」
そう言って女性は服の下に着ていた軍服をちらりと見せる。それを見た兵士はしりもちをついてしまう。
「む、紫のストライプ!それは将官の!し、失礼いたしました!」
立ち上がり、敬礼をする兵士。
「しかし、将官殿がわざわざ来てくださるとは・・・」
「一応妹にね、会いに来たの。」
武器も持たずに戦場へと歩いていく女性に、警備兵は羨望の眼差しを送った。
「リザベルト!何しに来たのだ!下がれ!」
「姉上、私も将校です。敵を殲滅します。」
「お前の敵う相手ではない!無駄死にしたいのか!」
ローズの叫びを無視して敵を見据えるリザベルト。仲間達の無惨な姿を見て、恐れよりも怒りが勝っているようで、微塵も震えはない。
(ゼロ殿の姿が見えない。やられたとは考えにくいが・・・レイアに何かあったのだろうか。)
「姉上!私がこの男の相手をしているうちにゼロ殿をお呼びください!」
リザベルトの言葉に何も反応できないローズ。
「どうしたのですか!このままでは全滅してしまいます!」
ようやく口を開くローズ。
「ゼロは、死んだ。」
「は?」
リザベルトにできた一瞬の隙をレイリーが見逃すはずはなかった。思いきり腹を蹴られ、吹き飛ばされるリザベルト。息が止まる。受け身をとるもののダメージは相当なもので、立ち上がることが出来ない。
(今、姉上はなんと言った?死んだ、死んだと言ったのか?誰がだ、ゼロ殿が?)
「リザベルト!くっ、貴様の相手はこの私だ!」
ローズは剣を構えるが、レイリーは無視してリザベルトの方へと向かう。
「全く、ゼロがこんなやつに殺されたとは考えられないがここに居ないのではしょうがないな。全員殺して帰るとするか。」
レイリーはナイフをリザベルトに向けて振り下ろす。肉を切る音がして血飛沫があがる。
しかしそれはリザベルトではなく、レイリーの体からだった。
「な、ガハッ!」
ナイフは腕もろとも彼方へ吹き飛ぶ。レイリーはもう片方の腕で無くなった腕を押さえながら後ろへ下がる。
(何が起きた、全く反応できなかった。)
レイリーは頭を必死に回転させる。しかし何が起きたのか全くわからなかった。よく見たらリザベルトとローズの姿もない。ただ明らかに分かるのは自分が殺されるということ。
レイリーにそう思わせるほどの何かが確かにここに存在している。
反応するよりも先に体が吹き飛ぶ。痛みすら置き去りにするほどの衝撃。レイリーは死の間際、ようやくその者の姿をとらえることが出来た。
女だった。軍服すら着ていない、兵士では無いのかもしれない。使っているのはレイリーのナイフだった。女の口が動いている。
「もう聞こえてないかもしれないけれど、一応自己紹介はしておこうかしら。私はジャンヌ、ジャンヌ・ヴァルキリア。一応、中将なの。ごめんなさい、あなた程度の賊に本来敵対する必要はないのだけれど、一応この娘たち妹なの。だから、一応死んで。」
そこでレイリーのすべてが終わった。
最後に考えていたのは姉、ムースの事だった。
(ああ、ねぇさん。やっと会えるね。きっと美しいんだろうな。二人だけの世界は。)
麗殺レイリー・メルは死亡した。




