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スティールスマイル  作者: ガブ
第一章 ゼロとレイア
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episode 4 「過去」

ゼロが目を覚ましたのはいつもの薄暗い小屋ではなく、清潔感のある明るい部屋だった。ボロボロだった体は、簡単ではあるももの手当てがされている。


「あ、目が覚めましたか? 気分はどうですか?」


体を起こし、声のする方に目をやると先程まで殺そうとしていた少女が食事の用意をしていた。咄嗟に腰に手を当てるが、そこにあるはずの拳銃は消えていた。


「……ここはどこだ。なぜお前がいる」


レイアは用意した二つの容器に食事を盛る。


「ここはわたくしが幼い頃暮らしていた別宅です。ひどい怪我だったので勝手に運んできちゃいました」


レイアが答える。


「バロードはどうした」


心ここに在らずといった感じで問いかけるゼロ。


「あの方なら駆けつけてくださった兵士の方に引き渡しました。あ、安心してください。あなたの姿は見せてません」


どうぞ、とゼロに容器を差し出すレイア。


「俺の銃はどうした」


ゼロが食事に手をつける様子はなく、目の前の少女を警戒する。なぜ自分を引き渡さなかったのか、なぜ隠れ家を明かすのか、なぜ手当てをしたのか、なぜ食事を用意するのか。

わからないことだらけだった。わかっていたのはこの少女に悪意がないこと。だがそれこそわからない。


「武器なら預からせていただきました。殺されたくないですもの」

「武器がなくともお前を殺すことなど訳はない」

「そうですか。でもまずはお食事しましょう」


この女は何を言っているのだ。非現実的な体験をしてイカれてしまったのか。もしやこの食事に毒が盛られているのか。いくら考えても答えが導きだせず、頭が混乱するゼロ。

中々料理に手をつけないゼロを横目に、レイアは食事を始めている。


「毒なんて入っていませんよ。あ、もしかして腕が使えなくて食べられないのですか?」


そういうとレイアはゼロに用意されていたフォークを手に取り、食事をゼロの口元に運ぶ。ガシャンと、音をたて容器が宙を舞う。


「ふざけるな。お前の施しなど受けない」


ゼロはレイアの手を振り払い、レイアを拒絶する。


「ああもう、食べ物を粗末にしてはいけませんよ。よそり直しますね」


床に撒き散らされた食事を片付けながらゼロに微笑みかけるレイア。その瞬間、とてつもない悪意がレイアを貫く。


「その顔だ。その顔が俺を駆り立てる。お前を殺せと」


強烈な殺気がレイアを襲う。今にも襲いかかりそうなゼロを止めるためには、手元にあるフライパンを使用する他なかった。

振り下ろされた鉄の固まりは、再びゼロを眠りへと誘った。



またこの夢か。

孤児たちが倉庫に溢れている。ゼロもそこにいた。仕事がもらえると聞きつけたのだ。恐らく他の子供もそうなのだろう。見たところどの子供もせいぜい7、8歳。自分とほとんどかわりない様子だ。どの子供たちも辺りをキョロキョロと見渡している。すると後方の扉がバタン、と音を立てて閉じた。いつのまにか入り口付近には不気味な笑顔の男が立っていた。


「こんにちは? 君たちに仕事をあげるよ?」


まるで仮面を被っているかのような男はそう言うと地面に様々な武器を投げ捨てる。


「武器はこの中から選んでね?」


ざわつく倉庫内。男は続ける。


「残った子は組織が責任をもって引き取るよ? 僕が外に出たら始めてね?」


倉庫内は混乱した。錯乱した子供が何人か男に向かって飛びかかるが、男は軽くよけ、一人の子供をつまみ上げる。


「みんな仕事は初めてだよね? 特別にお手本を見せるよ?」


丸太のように太い腕から逃れようと暴れ狂う子供には目も合わさず、おもむろに落ちている斧を拾い上げる男。


「斧はこう使うよ?」


そう言うと男はつかんでいた子供を空中に投げ出し、力任せに斧を振り下ろす。先程まで泣き叫んでいた子供は一瞬で沈黙し、血飛沫の音が薄暗い倉庫内に響く。


「他の武器の使い方も教える?」


男の質問に子供たちは否定も肯定もできず、ただただ目を見開く。


「一時間後にまた来るよ? ちなみに組織の椅子は一つだよ?」


男が倉庫を去った後、しばらく誰も動けずにいた。しびれを切らし外に出た子供もいたが、聞こえてくる悲鳴が結果を教えてくれる。


やがて運命を悟ったかのように、一人、また一人と武器の方へと歩き出す。ゼロも拳銃を手にしていた。誰も殺したくはない。だけど武器を手にしていなければ気がどうにかなりそうだった。


ざわつきは次々に悲鳴に変わっていく。そしてそれは少しずつ小さくなっていった。ゼロは死体の影で声を殺して震えていた。


50人はいたであろう子供達は30分後には10人ほどに減っていた。代わりに隠れるための死体は増えていく。このまま隠れていれば助かるかもしれない。だが、そんな気の緩みは危険を招く。


一人の子供と目が合った。その子は血塗られたナイフを握っており、目は血走り、正気を保っているとはとても思えない。ゼロはわかっていた。このままでは殺されること。そしてどうすればそうならないかの方法も。ゼロはそこで思考を捨てた。


二人目は簡単だった。乱射した一発が頭に当たり、すぐに動かなくなった。三人目は銃を持っていたが、その銃はゼロを狙うことなく、自らのこめかみを撃ち抜いた。そこから先は覚えていない。


「おめでとう? 君は今日から組織の一員だよ?」


1時間後、宣言通り不気味な笑みを浮かべる男が戻ってきた。ゼロはその顔を確認するよりも早く男に向かって銃を乱射し、弾が尽きると落ちている武器を拾って闇雲に襲いかかる。ゼロの攻撃は当たるはずもなく、首根っこを捕まれ地面に叩きつけられる。


「安心するといいよ? 君は殺さないよ? ただ、死ぬよりももっと辛いことがたくさんあるよ? 頑張って生きてね?」


ゼロは途切れる意識のなかで、その男の笑い顔がいつまでも脳裏から離れなかった。



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