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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
388/621

episode 388 「レックスの覚悟」

「……」



ゼロは口を開かない。それは答えを導き出せないからではなかった。ゼロの中で既に答えは決まっていた。だがそれを口に出すのには激しい抵抗があった。ゼロの心を見透かし、把握しているマリンは、ゼロがそれを口にするのをこころまちにしていた。


「時間は有限だ。それは人間にとっても魔族にとっても変わりない」


マリンは指をならす。すると少しずつゼロの目の前のゲートが収縮していく。



「ゲートが閉じればそれまでだ。皆殺しにしてメディアの墓前にでも供えよう」


メディアにとって他の魔族など自分の劣化以外の何物でもないと考えており、レヴィとメディアが死んだことでも少しも心は動かされてはいなかった。だが今のゼロには非常に心が動かされていた。


(魅せてみろ、崇高な人とやらの醜い心を)



ゼロは一歩、前へ出る。いや、押し出される。



「……レックス!」


レックスは立ち上がり、ゼロの背中を押していた。


「行けよ、お前にはレイアちゃんが居るんだろ? 助けにいってやれ!」


目は虚ろで、意識がはっきりしていないのは誰の目に見ても明らかだ。だがゼロの背中を押すその手には、力強いレックスの心がこもっていた。


「しかし……」

「しっかりしやがれ!」


枯れ果てた口で叫び声をあげるレックス。消えかかる命を振り絞り、ゼロに最期の言葉を伝える。



「約束……守れなくてごめんな」

「やめろ、レックス、やめろォ!」


レックスはゼロを無理やりゲートの中へと押し込む。ゲートはゼロを飲み込み、そして跡形もなく消え去った。





「面白い男だな……本当は死ぬほど怖いのだろう?」


マリンが今にも命が消えそうなレックスに声をかける。


「へっ……どうせ記憶は戻らねぇんだ。思い残すことはねぇよ」


レックスは精一杯の強がりをマリンにぶつける。



「たしかにお前の記憶を戻すことはこの私にも不可能だ」


マリンは意味深な視線でレックスとロミーを見る。


「それを聞いて安心したぜ。心置きなくあの世へ行けるってもんだぜ」

「そうだな。せめて最期まで見届けてやろう」



レックスはゆっくりと目を閉じる。しばらくしてマリンは姿を消し、聖峰パルテノンは大噴火を巻き起こした。


「レックス……」


ゼロにレックスを託した衛兵はその様子を心配そうに見つめる。


聖峰パルテノンは怒り、憎しみ、そして泣いているようだった。




(くそっ! また何もできなかった! また誰も救えなかった! くそ! くそ! くそっ!)


ゼロは異次元をさ迷いながら己の無力さを嘆く。


(レックスもロミーも俺を友と慕ってくれたというのに……命を懸けて俺を救ってくれたというのに……俺は何も出来ない……)


いくら嘆いたところで起きてしまった事は変えられない。それでも嘆かずにはいられなかった。



ゼロは海のど真ん中に飛ばされた。まったく見覚えの無い場所だ。だがおおよそここがどこかという見当はつく。



「神と魔族が戦った場所……」


辺りには手がかりとなるものは一つもなかった。だがここが魔族ゆかりの土地であることは間違いがない。だとすると何も無いのではなく、何もかもが破壊された後だということだ。おまけに周りにはまったく生物の気配がない。海に居るはずの魚たちですら全く現れない。それが何よりもの根拠だった。


ゼロは息を飲む。地形が、生態系が変わるほどの戦い。自分がどうあがこうとも到達することができない神の領域。



「だが、到達しなければならない。レイアを救いだすにはそれしかない」


ゼロはあてもなく海を泳ぎ続ける。しかしどこまで行っても土地らしい土地は見つからない。


(一体どこまで大規模な戦いをしていたというのだ……)


ゼロは背筋を凍らせながら進み続ける。しばらく泳ぎ続けるとふと何かに導かれているような感覚に襲われる。


「こっちではない」


ゼロはその感覚を頼りに、どこかへと泳いでいった。






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