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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
386/621

episode 386 「マリンの望み」

ボスを失った子犬型の魔獣たちは、一切の抵抗をしなくなった。洞窟の奥に密集し、小刻みに震えている。


「なあ、殺すのか?」


レックスが心配そうにゼロに尋ねる。


「必要とあらばな」


ゼロは魔獣に銃を向ける。魔獣はゼロの殺気に反応し、激しく体を震わせる。


「ねぇ、別に殺さなくても……ほら、かわいくないけど害もないじゃない?」


ロミーも震える魔獣に同情し、ゼロの説得を試みる。


「無論俺も殺しに肯定的なわけではない。だがこいつらを生かしておくメリットが見出だせないのも事実」


ゼロは引き金に手を当てる。ロミーとレックスもそれ以上は言わなかった。言ったところで無駄なことは重々承知していたし、二人も生かしておく理由が「かわいそう」以外に見つけられなかったからだ。


ゼロは躊躇なく引き金を引く。しかしその弾は空中で減速し、そして止まってしまった。



「……お前は!」


「久しいな、レイアは息災か?」



この牧場の主、最強の魔族、怠惰を司る者、マリンがゼロと魔獣の間に出現した。


マリンの持つ怠惰の力によって、彼女に向かうものは全て効力を失う。マリンは空中に浮く弾を弾き飛ばし、ゼロの苦痛に歪んだ顔を観察する。



「なぜ、貴様がここに……!」

「その顔、その顔を直接拝むためさ。実に愉快だ。わざわざ訪れたかいがあったってものさ」



マリンは続いてレックスとロミーを観察する。二人は気を失いそうになるほど動揺し、混乱していた。魔の気配を感じることができる二人にとってマリンという存在は正に規格外で、二人の感覚を遥かに越えるものだった。



「ぜ、ゼロ……にげ……」

「られるとおもうか?」



レックスが口を必死に動かし、逃走を図ろうとするが、マリンは瞬間移動としか思えない速度でレックスの前に移動し、その頭に手をかける。レックスは勿論のこと、その隣のロミー、そして簡単に隣をすり抜けられたゼロも驚愕する。



「そう恐れるな」



レックスの耳元で囁くマリン。


「お前たちはメディアのコマのコマなのだろう? 私にとっては孫のようなものだ。殺しはしない」


レックスは身動き一つできずにマリンの声を聞き続ける。


「ゼロ、お前もよく生き残ったな。メディアが空間転移しなければお前は確実に戦いに巻き込まれて死んでいた」


マリンはまるで見ていたかのようにゼロに語りだす。


「もちろん見ていたさ」


またしても心を読まれるゼロ。



「ならばなぜ助けに向かわなかった?」

「助けにいけばメディアは助かったかもしれない。レヴィも居たことだしな。だが相手はアテナだ。それにもし私が行っていたら他の連中も呼び寄せられたかもしれない。そうなっていればもはや戦争だ。辺り一帯は更地と化し、メディアの結界も破れていた。人の世界もことごとく破壊され、何百万もの死体の山が出来上がっていた」



まるで全て見たかのように説明するマリン。


「それは私としても避けたいところ。あくまでも私はこの世界に住んでいる。滅びは望みじゃない」


ねっとりとした口調でしゃべるマリン。その一言一言が三人の脳に浸透していく。


三人はまったくマリンに対して敵意を向けられなかった。マリンがこちらに対して敵意を向けてこないのもそうだが、とても太刀打ちできる相手では無いと本能が伝えてくるからだ。



「では、何が望みなんだ?」


自分で聞いておいて愚かだと感じるゼロ。例えそれがどんな望みであろうともゼロに止められる力などなく、聞いたところでどうすることもできないからだ。



「望みは一つ。平穏な日常さ。そしてたまに刺激があればいい。今回のような……な」



マリンは指をならす。するとゼロたちの背後の火口から噴火が起こり、マグマが噴き出す。もくもくと煙も発生し、ゼロたちの方へと流れてくる。飲み込まれれば勿論、死ぬしかない。



「貴様……」



ゼロはどうすることもできず、ただマリンを睨み付ける。


「ど、どうすんだよ! 逃げ場なんてないぜ!?」

「ヤバイよ! ヤバイよ!」


レックスとロミーは今にも泣き出しそうだ。



「さあどうする? ゼロ。私はいざとなればどこへでもワープできるが、お前たち人間ではせいぜい祈ることくらいしかできないだろう?」


マリンは、冷や汗を流し死と向き合うゼロの表情を愉しそうに眺め、そう言った。





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