episode 382 「かわいくない」
ようやく三人は火口付近へと到着した。想像していたよりは熱くはなく、むしろ震えていた。
「ロミー、感じるか?」
「うん、ヤバイね」
レックスとロミーはこの火口の中に居るものに恐怖し、怯えている。
ここならばゼロにもはっきりと気配を感じられる。
「間違いない……魔族だ」
ゼロは火口を覗きこむ。煮えたぎるマグマに加えて、微かながら影が見える。それも一つ二つではない。無数に影がうごめいている。それを確認したゼロは振り返り、二人に告げる。
「ここまでだ。お前たちは帰れ。明らかに手におえる相手じゃない」
しかし二人は引き下がらない。ゼロの話を無視し、火口を覗く。
「あれが魔族……とても人の形にゃみえねぇ」
「うーん、正直勝てるかわかんないね。そもそもどうやってあそこまで降りればいいんだろう」
ゼロは二人の服を掴み、引き寄せる。
「聞いていなかったのか? 死ぬぞ! オルフェウスではないが相当上級の存在だ! 俺たちの敵う相手じゃない!」
迫真の表情で二人に叫ぶゼロ。
「いいや、俺たちなら勝てる」
「力を合わせるためにここに来たんだよ」
二人は止めるゼロの話を聞かず、火口を滑り降りていく。
どうやら魔族が居る辺りは空洞になっているようだ。二人は溶岩にダイブしないように気を付けながら空洞を目指す。
「阿呆どもが!」
ゼロも急いで追いかける。体が熱い。それはもちろん溶岩のせいであるのだが、それだけではない。怒り。ゼロは激しい怒りに襲われていた。
(なぜどいつもこいつも自分の危険を省みず突き進む!? なぜ俺の話を聞かない!?)
それはレイアがゼロに対して抱いている怒りとまったく同じものなのだということに、まだ気がつかないゼロ。
火口の中心にはマグマ溜まりがあり、その外周に一メートルほどの足場がある。ゼロたち三人は何とかその足場に着地する。魔族は隠れてしまったのか、どこにも見当たらない。
「地獄ってこんな場所のこというんじゃねぇか?」
「少なくとも天国ではないね」
「どちらでも構わない。魔族へと通じているのならな」
ゼロは魔族が居ると思われる穴を指差す。暗くてよく見えないが、確かにその穴の奥から魔族の気配が漂っている。
「いよいよって感じだな」
レックスは拳を握りしめる。緊張しているのか、その拳は汗でびっしょりと濡れている。
「魔族といえど所詮は生物だ。生きているのなら殺せる。それを忘れるな」
ゼロも銃を握りしめる。
「良かった、二人と一緒で!」
ロミーも体をほぐし、戦いへと備える。
三人が戦闘体勢に入ると、穴の奥から気配が近づいてきた。警戒する三人。だが現れたのは拍子抜けするほど小さな犬のような獣だった。
「わぁ、かわい……くない!」
その生物に近づこうとしたロミーは手を引っ込める。無かったのだ、顔が。
「間違いない! 魔獣だ!」
ゼロは魔獣に銃を撃ち込む。だが魔獣は素早い動きでそれを回避し、レックスに向かって飛びかかる。
「うおっ!」
レックスは魔獣に向かって拳を突き出すが、またしても魔獣は空中で攻撃を回避し、逆にレックスの顔面に突進する。
「ごっ!」
とても小動物の体当たりとは思えないダメージがレックスを襲う。
「レックス!」
「っ痛! 平気だ!」
鼻血を流しながらゼロの声に答えるレックス。
「気をつけて! こいつ速い!」
ロミーが叫ぶ。今度は標的をロミーに変えたようだ。
(速いけど何とか対応できる! 落ち着いてやれば倒せない相手じゃない!)
魔獣に対抗できることにひそかに喜びを感じるロミー。だが次の瞬間、彼女を絶望が襲う。
「うそ、でしょ?」
ロミーは自分の目を疑った。穴の奥からは先程の魔獣が何十匹も姿を現した。




