episode 380 「聖峰パルテノン」
ロミーはとにかく元気がよかった。レックスも陽気な性格だが、ロミーの前では霞んでしまう。急いで魔族のもとへと向かいたかったが、どうしてもお腹が空いたと言って食堂へと駆け込む。
「もう、こいつは置いていこう」
ゼロはばくばくと口に食事を運ぶロミーを見ながらレックスに告げる。
「そう言うなよ、ロミーの力は役に立つぜ?」
軽く十人前を平らげるロミーに若干恐怖しながら答えるレックス。
「ふー! 食べた食べた! 何事もまずは腹ごしらえからだね!」
丸く膨らんだお腹を満足そうにさするロミー。
「なら急ぐぞ。魔族の気配はどこから感じるんだ?」
ゼロの質問にロミーとレックスは同時にある場所を指差す。
「あそこだな」
「あそこだね」
二人の指差す先にはそびえ立つ火山があった。山頂からはもくもくと煙が噴出しており、いつ噴火してもおかしく無さそうだ。
「あれは聖峰パルテノン。テノン唯一にして世界最大の山だ」
誇らしげに説明するレックス。確かにその山にはなんとも表しがたい神々しさがあった。
「あの山は山自体が加護を受けてるって話だよ」
ロミーが補足説明をする。
「あの山はもともと火山じゃ無かったらしいぜ。けどよ、最近になって大きな噴火が起きたらしくてよ、それ以来ずっとあの調子なんだと」
レックスがチラチラと片手に持ったガイドブックを見ながら説明する。
「魔族とやらについて俺はよくわかんねぇけどよ、あれは山が魔族と戦ってるってことじゃねぇかな?」
レックスの言葉にロミーも頷く。確かにあの煙は体内の細菌を体外へと吐き出そうとしているみたいだった。
「なるほど、案外その通りなのかもしれないな。行こう、あの山へ」
ゼロは一歩前へと飛び出す。するとロミーがさらに前へと進む。
「よーし! 食後の運動だ! 山頂まで競争しよう、どんけつは明日のご飯をおごること!」
ロミーは全速力で走り出す。
「あ、おい! やべぇぞゼロ……ロミーの食欲見たろ? 破産しちまう!」
レックスも破産の恐怖に怯えながらロミーを追いかけていく。
「緊張感の無いやつらだ」
そう言いつつもゼロも二人を追いかけていく。
ゼロは脚には自信のある方だった。そのゼロから見ても二人の身体能力はかなりのものだった。てっきり突き放し、追いかけてくるものとばかり思っていたが、こちらが全力で追いかけなければ追いつくことすら難しかった。
「ほらほらゼロ! のんびりしてたら夜になっちゃうよ!」
ロミーに煽られる始末だ。
「下らない……だかそれで俺が負けていい理由にはならない」
なんだかんだ言って負けず嫌いのゼロ。結局一位で山頂へとたどり着くことができた。
「うわ! まけちゃったか、残念……」
ロミーは本当に悔しそうに肩をおとした。それでいてゼロの速さにも興奮している。
「ねぇ、どうしてそんなに早く走れるんだよ! どんなトレーニングしてるのさ!」
ロミーがしつこく聞くのでゼロはレックスに助けを求めようとするが、レックスはまだ到着していなかった。途中で何かあったのかと引き返そうとするゼロだったが、前方に豆粒のようなレックスの姿を確認して胸を撫で下ろす。
「はぁ、はぁ、お前ら、はぁ、はや、はぁ、過ぎる、はぁ、ぜ!」
息を切らしながら到着したレックス。
「きっと私はきちんと訓練を積んでたんだよ! ありがとー、過去の私!」
レックスを見下ろしながら笑うロミー。
「うるせぇ!」
言い返す言葉がそれしか見つからないレックス。
山頂へとたどり着いた三人。だがあくまでもここは人が踏みいることのできる限界点であり、山の頂上というわけではない。三人が向かう先はこの先にある。
「しかし……濃いな」
「うん」
レックスとロミーは魔族の気配をひしひしと感じていた。ゼロもここまで近づいたことでなにやら嫌な気配は感じるが、それほど強力な気配とも思えない。マリンやオルフェウスと出会った時のような絶望感は感じられない。
(だが、必ず繋がるはずだ。奴のもとへ)
ゼロは拳を握りしめる。ここからまた歩き出す。オルフェウスへと続く道を。




