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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
371/621

episode 371 「よみがえりし記憶」

魔族。その単語が頭に浮かぶゼロ。そうでなければ説明がつかない。


「どうした? 天地が逆転でもしたか?」


二人の驚愕する表情を満足そうに見下ろすマスター。服についた土ぼこりをはらいながらレックスとロミーの様子を確認する。



「おい」



ロミーの頬を叩き、意識があるかどうかを確認するマスター。だがロミーに反応はない。レックスも同様だ。


「まずはチャンピオン、流石と言っておこう。あの方が目をつけただけのことはある」


オイゲンに称賛をおくるマスター。そして転がるレックスとレミーを蹴りつける。


「それに引き換えこのゴミどもはコマにも成れないとはな」


コマ、マスターの発したその言葉で確信するゼロ。



「貴様……魔族だな」


ゼロから放たれたまさかの言葉に目を丸くするマスター。そして目を細め、納得したかのように小さく頷く。


「そうか……お前があのゼロか。メディア様から話は聞いているぞ」


メディア。魔女の三番目の子にして色欲を司る魔族。彼女の目を見つめてしまった者彼女を第一優先とする忠実なるコマとなってしまう。



「魔族? メディア? 訳のわからない話を……」


オイゲンは再び拳を握りしめる。


「何度やっても同じ……それは貴様自身よくわかって居るだろう? それでもなお攻撃を続けずにはいられない……なんともおろかな話だ。だが俺はそんな愚か者、嫌いではないぞ? 俺がより上位の存在だということが再認識出来るからな」


マスターは両手をオイゲンへと向ける。


「さて、俺の力についてはもう説明する必要はないな? だがそれでも説明はさせてもらう。悪いがこれが発動条件なのでね」


どのような方法なのかはわからないが、ここに居れば記憶を消される。それは間違いない。オイゲンとゼロはマスターに背を向け、力の限り走り出す。



「まてまて、逃げられては色々と不都合だ。メディア様と違って俺のは洗脳ではないし、完全でもないのだ。きちんと手順は踏ませてもらう」


当然のように二人の速度に追い付くマスター。特にオイゲンはもうすぐ後ろにつけられてしまっている。


「オイゲン!」

「行け! どうせ俺は一度記憶を消されている! それにお前が記憶を消されてはセシルについて永遠に謎のままだ! 行け!」


後ろを気にするゼロを怒鳴り付けるオイゲン。マスターの手がオイゲンの首もとへと迫る。



「行け! ゼロ!」



再びオイゲンが叫ぶ。ゼロは後ろを振り返らず、全速力でその場を離れていく。


(クソッ! クソッ! クソッ! 俺は……クソッ!)


どこかで自分の記憶が消されたくない、レイアとの思い出を無かったことにしたくないと考えてしまうゼロ。最終的にオイゲンではなく自分自身を選んでしまったことに罪悪感を感じる。だがそれでもゼロはオイゲンを助けに戻ろうとはしなかった。レックスもロミーも、もう頭にはなかった。後ろを振り向かず、マスターから逃げ続けた。



「さて、つぎの段階だ」


マスターはオイゲンの頭に両手をつけながら説明を続ける。オイゲンは抵抗するそぶりを見せない。まるで力を吸いとられてしまったかのように地面に両ひざをつけ、なすがままだ。


「俺の力はもちろんメディア様から受け取った。そして俺はメディア様に操られてもいない。その必要は無いからな」


この力の発動条件というのは本当なのだろう。聞かれてもいないことを永遠と語りかけるマスター。


「俺はマリン様の一番槍だ。コマを増やす役目を仰せつかっている。この大会を開いたのもより優良なコマを探すためだ。お前のような強者をな」


マスターの話が進むにつれてオイゲンの目はどんどんと虚ろになっていく。


「そしてお前をエサにゼロまで釣ることができた。はたして俺はどんな褒美を貰えることやら」

「だが……お前の力は完璧ではない」


オイゲンは最後の力を振り絞り、マスターに言葉をぶつける。


「なんだと?」

「俺はセシルを覚えていた。お前に記憶を消された筈だというのに。だから何度俺の記憶を消そうとも、必ず取り戻す」


オイゲンの言葉を聞いて驚き、もしくは怒りの表情を浮かべるかと思われたマスターがみせたのは笑顔だった。


「ハハハ! これは滑稽だ。数々の愚者をこの目に焼き付けてきたが、お前は別格だな!」


オイゲンにはまったく言葉の意味が理解できなかった。訪れるのは怒りではなく不安。この男の笑みには蔑みではなく哀れみが含まれていたからだ。


「何が……可笑しい?」


薄れていく意識の中で最後の質問をするオイゲン。そしてマスターは最後の最後に答えてくれた。



「教えてやる。お前はそのセシルとやらを助けようとして居たのではない。利用していたのだ。それも何か特別な理由があったわけでもない。彼女の金が目当てだった。そのために彼女の家族を皆殺しにし、彼女を助ける振りをし、彼女の善意につけこんだ」



マスターは子供に世界の仕組みを説明するようにとても丁寧に、それでいて悪意満載な口調でオイゲンの耳元で呟く。そしてその言葉を聞き終えた時、オイゲンは全てを思い出した。



「嘘だ……」



涙が自然とこぼれていく。



「嘘じゃない。だから泣いているんだろ? まあいいじゃないか。どうせこの記憶も無くなる」



マスターはオイゲンの目に手を乗せる。そして涙の感覚を楽しみながら高らかに嗤う。



「ハハハハハ! これだから止められない! これだから!」


オイゲンはゆっくりと眠りにつき、そして再び全てを忘れた。











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