episode 364 「組み合わせ」
大会の一日目が終了し、選手たちは再び控え室へと戻っていった。百人近く居た出場者が七人にまで減ったことで会場内もだいぶ静になり、より選手たちに緊張感が伝わる。
「よ! 飯でも食いにいかねぇか?」
緊張感を紛らわせるため、ゼロの控え室を訪れたレックスだったが、そこにゼロの姿は見当たらない。
「あいつ……マジでチャンピオンのとこ行ったのかよ」
会場でチャンピオンの姿を確認したゼロは明らかに様子がおかしかった。人々が去り、死体が片付けられてからもゼロはしばらくその場から動かず、チャンピオンが姿を消すと、それを追いかけるようにゼロも姿を消した。
「久しぶりだな。やはり生きていたか」
レックスの予想通りゼロはチャンピオンの控え室を訪れていた。
「……どうやってここまで来た? 監視員が居たはずだが」
オイゲンはゼロの顔を一切見ず、背中を向けたままで尋ねる。
「悪いが彼らには寝てもらった。その方が話がしやすいだろう」
オイゲンについていた監視員たちは近くで伸びていた。
「失せろ。貴様に用はない」
オイゲンはちらりと目だけゼロに向け、また再び背中を向ける。
「ずいぶんな言いぐさだな。ここで何をしている?」
オイゲンはゼロの質問にすくっと立ち上がり、その大きな体で近づいてくる。
「聞こえなかったのか? 失せろ」
コンクリートでできた扉を素手で砕きながらゼロを威圧するオイゲン。
「オイゲン、お前本当にどうしたんだ?」
「死にたいのか? 貴様を見ていると何故か腸が煮えくり返りそうになる」
これ以上ここにいると本当に殺されかねないその迫力に、ゼロは仕方なく退散する。
(オイゲン、本当にオイゲンなのか? まるで俺のことを覚えていない様子だったが……)
ゼロは不安になってくるが、あの容姿は間違いなくオイゲンだった。
(オイゲンほどの男だ。何か事情があるのだろう……ともかく彼がチャンピオンなら金については心配なさそうだ。おそらくレイアのもとにはセシルも一緒だろうからな)
どっと肩の荷が降りたゼロ。体が軽くなる。
「お、良かった! 生きてたか!」
「……なぜお前がここにいる?」
レックスはゼロの控え室の中で帰りを待っていた。
「お前と話をしておきたくてよ。しかしスゲーな一回戦! 正直あんなに強かったとは思って無かったぜ。結局俺ら何もせずに勝ち進んじまったからな」
少しもの足りなさそうな顔でゼロに告げるレックス。
「まったくだよ」
まるで気配を感じなかったが、扉の外にはいつの間にかもう一人立っていた。残った七人の中で唯一の女性だ。その髪は雪のように白く、その瞳は炎のように朱かった。
「誰だ」
そう尋ねるゼロだが、おおよその予想はついた。その女性が帝国軍の軍服を身に付けていたからだ。
「私はロミー。ロミー・チルッタ少佐。君がゼロ君だね。シオンから話は聞いてたよ!」
ロミーはシオンと変わらないほど天真爛漫な少女で、放たれるオーラも彼女と比べても遜色無いレベルだ。
「帝国軍だぁ? 軍人が喧嘩しにわざわざこんなとこまで来んのかよ」
レックスが早速おちょくる。
「喧嘩じゃない。武術だよ」
ロミーは拳を突き出す。
「のんきなことには変わらないな。いま帝国がどのような状況にたたされているのか知らないのか?」
「え?」
ゼロはロミーに帝国で起きたことを全て話した。ゼロの話を最後まで聞いていたロミーだったが、話の内容は全く信じていない。
「魔族ってそんなこと急に言われてもねぇ。それに帝都にはシオンやジャンヌ中将、ガイア准将、それに何よりイシュタル元帥も居るんだよ? あの人たちがもしやられたのならもうこの世界はおしまいだよ」
一体いつごろから帝国を離れているのか、彼女は状況を全く理解していなかった。
「大体君と帝国に何の関係があるの? 君が心配しなくても帝国は大丈夫!」
満面の笑みで答えるロミーだったが、それを見たゼロは無性に腹が立った。
「信じないのならその目で確かめるといい」
「そうだね、君に負けるようならすぐに帰るよ」
火花を散らす二人。
「ま、何でもいいけどよ、そろそろ明日の組み合わせが発表されるんじゃね?」
レックスにつれられ、広間へ向かう二人。そこには既に他の四人も集まっていた。彼らは後からやって来た三人には目もくれず、壁に張り出された紙に釘付けになっていた。
「お、もう発表されてっな」
三人も早速確認しに行く。確認した三人の表情は三者三様だった。
「げ! まじかよ! 初っぱなか!」
「あちゃーこりゃ対決は叶いそうに無いね」
「……」
紙にはこう記されていた。
第一試合 レックスVSアルバ
第二試合 ロミーVSキキョウ
第三試合 モンスVSトッド
そして第四試合……チャンピオンVSゼロ




