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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
363/621

episode 363 「一回戦」

会場には既に数人の出場者が集まっていた。レックスの姿も当然そこにあり、こちらに向かって手を振っている。


「おーい! こっちだ!」


ゼロは呼び掛けるレックスを無視し、チャンピオンを探す。しかしそこにチャンピオンの姿は無い。


出場者たちが集まり出すと一人の男が壇上へと上がった。



「よく来た! 今回もやって来た! 拳と拳で語り合う、魂と魂を奮わせる! 戦いの神に俺たちの戦いを捧げようぜ!」


拡散器を抱えた男が大声で会場に叫びかける。その声で選手は奮え、観客は大いに騒ぐ。



「第58回アテーナ武術大会、ここに開催だぁああああ!」



会場ははち切れんばかりの歓声に包まれる。選手たちは各々体を動かし、準備運動する。



(いよいよか)


ゼロも腕をポキポキと鳴らす。



「それじゃ早速だが第一回戦だ! 戦え! 三十分後、立ってたヤツが二回戦出場だ!」


それだけ言うと男は裏へと姿を消した。


(戦え、といっても方法はどうするつもりだ? そもそも誰と戦えばいい?)


ゼロの疑問は直ぐに明らかになった。その場の男たちは次々に殴り合いを始めた。この場全員が敵なのだ。



「うおぉぉぉぉぉ!」

「らぁぁぁぁぁぁ!」



所々で激しい声と音が聞こえる。



「これが武術だと? 笑えないな」



そこで行われていたのは武術とは名ばかりのただの喧嘩だった。



「あ、言わなくてもわかってるだろーけど、勿論殺しもOKだ! 死にたくなかったらさっさと棄権するんだな!」


先程の男が声だけ会場に届ける。だがその声も観客たちの叫び声にかき消される。


「殺れぇぇ!」

「口を押さえろ! 首をねじきれ!」


とても武術大会とは思えない歓声が聞こえてくる。観客席には今朝の老人たちの姿もあったが、反応は他の観客と全く同じだった。



「ふざけている……これではまるで」



ゼロは自分の一番古い記憶を呼び戻す。初めて人を殺した日、あの倉庫での出来事を。



「おらぁ! 突っ立てんじゃねーよ!」


大柄な男がゼロを見つけ、襲いかかってくる。丸太のような太い腕でゼロの顔面めがけて殴りかかる。が、ゼロは男の反応できない速度でそれを回避し、男のみぞおちに鋭い蹴りを繰り出す。


「こはっ!」


大柄な男は大きな音をたてて崩れ落ちる。



「狂っている。この仕組みも、戦うやつらも、それを眺める観客どもも」



武器を持っていないだけで、行われているのはあのときと全く同じことだった。


「俺が終わらせてやる……」


ゼロの中の闘志が怒りへと変わっていく。そしてその怒りはゼロの体から溢れだし、会場全体に流れていく。



「な、なんだ!」


レックスは直ぐにその異常な気を感じとり、戦線を離脱する。彼と同様に何人かは戦いの渦から逃れ、戦況を見つめ始めた。



「警告はした」



ゼロは怒りを爆発させ、手当たり次第に選手たちを襲っていく。選手たちはゼロに対抗する術を全く見いだせず、バタバタと倒れていく。そして時間である三十分後には、百人近く居た選手は、僅か七人にまで減っていた。



ゼロに戦闘能力を見せつけられた観客たちは狂ったように騒いでいる。残った他の六人は逆に息を飲んでいた。


「アイツ……やっぱり只者じゃねぇ」


レックスも改めてゼロの強さを思い知らされていた。



「イェーイ! すげぇもんを見せてもらったぜ! さぁ、本日の試合はこれで終了だ! しっかりと鋭気を養ってまた明日顔を見せてくれ!」


あの男がひょっこりと顔をだし、拡散器で観客を盛り上げる。



「さてさて、明日の試合は八人によるトーナメント戦だ! 楽しみにしててくれよ!」


男の話を聞いてレックスが顔をしかめる。


「まてまて、俺たちゃ七人しか居ねぇぞ? まさかアンタが出場すんのか?」


他の選手も同様の疑問のようだ。


「バカ言っちゃいけねぇ。もう一人居るだろ?」

「まさか……」


嫌な予感が選手たちの脳裏をよぎる。




「俺が出る」


拡散器の男の後ろからもう一人、男が現れた。その聞き覚えのある声にゼロは耳を傾け、その見覚えのある顔に目を見開いた。



「オイ……ゲン?」



現れたのはあのオイゲンだった。観客はチャンピオンの登場で我を忘れるほど舞い上がっていた。選手たちは絶望と恐怖に支配された顔でオイゲンの姿を見ている。ゼロは喜びと不安が同居する不思議な感覚に襲われていた。


「オイゲン?」


オイゲンは明らかにこちらを見ている。だがゼロの姿を見ても何の反応も示していなかった。ただ、チャンピオンとしてゼロたちを叩きのめす、そういった感情しか表してはいなかった。





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