episode 36 「ローズ」
ローズはゼロを警戒する様子もなく、悠々と近づいてくる。ゼロはローズに向けて発砲するが、頑丈な鎧に遮られてしまう。ゼロは銃をしまい、ナイフを手にする。
「悪いが手加減をしている余裕はない。」
ゼロは全力でローズに飛びかかる。鋭い蹴りをあびせ、ナイフで鎧の継ぎ目を狙う。ローズは蹴りを受けきり、ナイフを剣で弾く。ナイフは遥か後方に飛んでいき、地面に突き刺さる。
「私は全力でかかってきてもらって構わないぞ。」
ローズがニヤリと笑う。その顔に殺意を覚えながら拳を握りしめる。
「格闘術はあまり得意ではないんだがな。」
ゼロは鎧の隙間、喉元を狙って突きを繰り出す。ローズは簡単に避けて剣で切り付ける。
「ハッハッハ。本当だな。まるで蚊でも止まるかのような突きだ。」
「次は息の根を止めてやろうか?」
ゼロは再びローズに飛びかかる。首に向かって蹴りを繰り出すが、受け止められてしまう。
「何度やっても同じだぞ?」
「どうかな。」
後方から飛んできたナイフを受け取り、ローズの脇腹に刃を突き立てる。
「ウグッ」
膝をつくローズ。
「大丈夫?ゼロ。」
「ああ、助かった。」
追い付き、ナイフを投げてくれたケイトに礼を言うゼロ。
脇腹を押さえつつも、まだ戦意喪失はしていないローズ。
「浅かったか、気を付けろケイト。ヤツは強いぞ。」
「わかってる。」
ケイトもローズを見てその底知れない力を感じる。
「痛いな、久しぶりだよダメージを受けたのは。しかし女性の肉体に刃を突き立てるとは、男としてどうなんだ?」
ローズは剣を杖がわりにして立ち上がる。
「リザベルトの姉らしいな。やつには借りがある。できれば貴様を傷つけたくはない。大人しくそこをどけ。」
そういいつつもゼロはナイフを構え続ける。
ローズは鎧を脱ぎ始める。リザベルトとは違い黒髪で、ストレートヘアーだった。
「それは傷つけてから言う台詞ではないな!」
ローズはゼロに向かって斬りかかってくる。
鎧を脱いで身軽になったからか、スピードは先程とは比べ物にならないほど速い。
ゼロはナイフで受けるが、長く持ちそうにない。かといって銃を取り出すほどの隙もなく、防戦一方になってしまう。ケイトはローズの隙をつこうと伺うが、ローズはケイトの警戒も怠っておらず手が出せない。
ローズの脇腹からは堪えず血が流れ出しており、度々吐血もする。しかしローズの剣に衰えはなかった。
「貴様、なぜそこまでする。死ぬぞ。」
「無論、国のため、ヴァルキリアのためだ。ここでお前を排除しておかなければ我々や、国民に危害が加わるかもしれないからな。」
「そんなことはしない。」
「なぜそう言いきれる?お前は人殺しだ。今までも、そしてこれからもな。」
ローズの言葉に何も言い返すことが出来ないゼロ。
「何でそんなこと言うの!ゼロはレイアのため、かつての仲間に命を狙われながらも旅を続けてる!何度も何度も戦かって、何度も何度も傷ついてここまで来た!」
何も言わないゼロの代わりに必死で叫ぶケイト。
「ずいぶんとこの殺人鬼の肩を持つんだな。そういえばお前も人殺しだったな。次はお前だ。」
ローズは追撃の手を緩めずに答える。ローズは全く聞く耳を持っていない。目の前の敵を排除することしか考えていないようだ。
「俺とケイトを殺した後、レイアはどうなる。」
「レイアは友人だ。手厚く歓迎する。お前たちは役目を終えて去ったと伝えよう。この世からな。」
ローズは意地悪っぽく笑う。ゼロはローズの言葉を聞いて安心したようすで手を緩める。
肉を切り裂く音とケイトの悲鳴が共鳴する。
ローズは入る事の無い一撃が入ったことに驚き、立ち尽くす。
「・・・約束だ。レイアの事は頼んだぞ。」
ケイトはゼロに駆け寄り必死に呼び掛ける。
ゼロはゆっくりと目を閉じる。幸せそうな笑顔を遺して。
これにてスティールスマイル第一部完となります。今までありがとうございました。引き続き第二部をお楽しみくださいませ。




