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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
358/621

episode 358 「アカネ」

アカネの献身的な看病のかいあってか、ゼロの怪我はみるみるうちに良くなっていった。看病を続けていくとアカネ自身にも変化が現れ、以前とは比べ物にならないくらい明るくなった。身だしなみにも気を使うようになり、その姿を見たしたっぱたちが思わず互いの頬をつねりあって現実かどうか確かめるほど劇的に変化していた。



「最近姉御、明るくなったよな?」

「前にもまして魅力的っつーか」

「正直可愛くなったな」



がいがいわやわや盛り上がるしたっぱたち。だがその中にもアカネの変化を快く思わない者も居た。


「気に食わねぇ」





ゼロは単純にアカネの看病に感謝していた。始めのうちは早々にここを立ち去るつもりだったが、いつの間にかすっかり居心地がよくなってしまっていた。もちろんレイアのことは片時も忘れたことはなかったが、そのレイアを確実に救出するためにと、今は傷の回復に専念していた。



「よう、少しは良くなったかよ」



ゼロの部屋を訪ねるアカネ。手にはいつもの薬を握っている。


「ああ。この薬のお陰だ。しかし見たことの無いものだ。原材料は何だ? 無色透明で少し粘りけがあり、何やら独特な香りが……」


渡された小瓶の匂いを嗅ぎながら質問するゼロ。



「ん、ああ、それはアタシのだえ……って嗅ぐんじゃねぇ!」


アカネは慌ててゼロから小瓶を取り上げる。



アカネには昔から不思議な力があった。彼女の体液には人の傷を癒す力があり、そのせいで少女時代は随分と辛い目に遭った。一時期裏社会に捕らえられ、道具として扱われていた。


だが今は道具扱いする者など一人もおらず、この力を自分の意思で使うことができる。昔は考えたこともなかったが、好きになった人のために使うことができる、それはこの上ない喜びだった。



「アタシが塗ったげるから……服脱ぎな」



アカネはそう言うと自ら率先してゼロの服を脱がせた。


「……」


改めてゼロの体を見ると、生きているのが不思議なくらい全身傷だらけだった。擦り傷、切り傷、刺し傷、火傷、研究者がみたらさも喜びそうなサンプルだ。



「なあ、聞いてもいいか?」

「……答えるとは限らんがな」



薬を塗り終え、ゼロのとなりに腰かけるアカネ。


「あんた、何であんなにずたぼろで倒れたんだよ。一体何してたのさ」


アカネの質問にゼロはゆっくりと口を開いた。



「魔族と戦っていた。大切なものを取り戻すために」


突拍子も無いことを言い出すゼロの言葉に思わず吹き出すアカネ。


「魔族? あんた何言ってんのさ? アタシをからかってんのか?」


だがゼロの瞳は真っ直ぐで、とても偽りを言っているようには見えなかった。


「その魔族ってんのはよくわかんないけどさ、あんたの言う大切なものって、その……レイアってのと関係あるんだろ?」


ボロボロだった理由なんてアカネにとってはどうでもよかった。一番聞きたかったのはそこだ。



「レイア? レイアと言ったのか!? なぜお前がレイアを知っている!? まさか魔族の手先か!?」


明らかにゼロの態度が急変した。それだけでアカネには充分すぎる程の答えとなった。



「……いや、あんたが寝言で言ってたのさ」


寂しそうに、悲しそうに答えるアカネ。その様子を見てゼロもこれ以上言及することを止めた。



「レイアは……俺の光だ」

「え?」


突然語りだすゼロ。


「俺は昔、人を殺す仕事をしていた。闇に紛れ、闇と同化して生きていた。糞みたいな人生だ。人としての生活など望んでもいなかった。もちろんできるはずもないからな。だがレイアと出会って俺は生きる希望を見つけたんだ」


アカネは黙ってゼロの話を聞いていた。表情にはさほど現れてはいないが、レイアの話をするときのゼロはとても生き生きとしていた。


「レイアは俺の生きる理由だ。だがレイアは今、悪の手に落ちている。だから助け出す。そのためなら俺はどんな犠牲でも払うつもりだ。無論、俺の命も」


アカネに付け入る隙はなかった。ゼロの話を聞けば聞くほどそれが実感できた。


「そうかよ、よくわかった」


必死にそれだけ言葉を絞りだし、アカネは逃げるように部屋を出ていった。そして自分の部屋へと籠り、誰も見ていないところで泣き続けた。





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