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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
350/621

episode 350 「魔族へと続く道」

リザベルトか死に物狂いでたどり着いた先は何もない荒野だった。あるのは砂ばかりで生き物の姿は見当たらない。


ゼロの血液は既に大部分外へと流れ出てしまったようで、顔の色はシオンのように青白く変色し、体も小刻みに震えている。


(死なせはしない、姉上の為にも)


リザベルトはゼロの服を脱がせ、傷の具合を確かめる。傷口に布を当て、自分の着ていた軍服をゼロに被せる。


(どこか……身を隠せる場所は)



魔族のゲートをくぐってきたということは、この近くに魔族がいる可能性が高い。早急に身を隠したいところだが、見渡す限りの平地で岩すら存在しない。



「すまないゼロ、動かすぞ」



リザベルトはゼロの体を背負いながら、一歩ずつ進んでいく。こぼれ落ちそうな涙を強い意思で必死にこらえ、行くあてもなく進んでいく。





「あれは……」


一人の男が二人の様子を観察している。しかし男がいる場所は例の荒野ではない。何もないことには変わり無いが、男がいるのは白くて四角い部屋の中だった。窓もなく、直接二人を直接見ることもできない。



「ほう、お前程度でも感じることができたか」



何もないその部屋に男の声が響き渡る。勿論はじめからそこに居た男とは別の声だ。もっと黒く、もっと深く、もっと異質なその声の持ち主は、黒い霧のような状態で現れ、そして人の形へと変化した。


「オルフェウス……」


初めからそこに居た男、もとい元最強の殺し屋アーノルト・レバーが現れた男に話しかける。



「様を付けろ……まぁいい。俺様はいま気分がいい。ようやくお前にも俺様の劵属としての力が備わってきたのだからな」


オルフェウスは珍しく機嫌がいいようだが、それも長くは続かない。すぐさま自分の庭に侵入してきた者たちへと怒りの感情を表し始める。



「さて、勝手に俺様の庭に入り込んだあのウジ虫ども……お前ならどうする?」


アーノルトに問いかけるオルフェウス。アーノルトは目を瞑り、部屋の扉に手をかける。


「はっきり言ったらどうだ? そうすれば俺が始末する」


アーノルトの言葉を受けてオルフェウスはまた霧状の体へと変化する。そしてアーノルトの体に覆い被さる形で耳元で囁く。


「いつも言っているだろ、口の聞き方に気を付けろ……ここでお前を捻り潰してもいいんだぞ?」


アーノルトは動かない。否、動けない。



「……ふ、冗談だ。結果で示せよ、殺し屋。もし俺様の期待を裏切るようなことがあれば……その時は冗談ではすまされないぞ」



オルフェウスはアーノルトにしっかりと恐怖を植え付け、霧のように消えていった。



「わかっている」



そう呟いて部屋の外に出るアーノルト。外は部屋とは違いとても薄暗く、まるで監獄のようだ。現に監獄もあり、檻の中ではフェンリーが不満を漏らしていた。



「吸いてぇ……もう限界だ」


タバコを断ってまだ一日もたっていない。実際は昏睡していた期間があるのでそれ以上だが。


「病み上がりなんだからやめておいて正解だよ」


フェンリーと同じ檻に入っているワルターがしみじみと答える。どうやらいままで一緒にいて、副流煙にはだいぶ苦しめられてきたようだ。


「お二人とも、お静かに」


隣の檻にはレイアが入れられていた。何者かの足音を感じ、二人を注意する。



「思っていたよりは元気そうだな」


現れたアーノルトがレイアに声をかける。


「どこへ行くのですか? まだこの時間はトレーニング中のはずでは?」


ここへ入れられてから数日が経過し、アーノルトの日課がほとんど頭に入っているレイアが問いかける。



「お前には関係ない」


まだ何か言いたそうなレイアの檻の前を早々と離れ、フェンリーとワルターの檻の前を通るアーノルト。



「よう、魔族」


フェンリーが煽るが、アーノルトは完全に無視し、通りすぎていく。


「おい待て! タバコをよこせや!」

「フェンリー、やめてくれ」


暴れるフェンリーを取り押さえるワルター。まだ完全に治りきっていないのか、フェンリーの力はとても弱く、簡単に取り押さえることができた。


(フェンリー、やめてくれ。本当に)




オルフェウスに戦いを挑み、敗北したガイアとローズ、そして悪夢にさいなまれるシオンはまだ意識が戻らない。更に隣の檻に乱雑に放置されていた。


(俺は正しい選択をした。ここで干からびていくわけにはいかない)


ガイアたちを横目で見ながら外へと進んでいくアーノルト。


建物を奥まで進んでいくと、いくつかのワープゲートのある場所へとたどり着いた。オルフェウスの力で常時解放されており、彼の所有する土地へと続いている。そのうちの一つの前に立つアーノルト。



「ここか」



魔族に近づきつつある、その実感はアーノルトには無い。だが、なぜゼロたちの侵入に気が付いたのかといえばそれ以外に説明がつかなかった。


(俺はこんなところで死んではいられない。例え魔族に堕ちようとも、生き残る)



そう胸に決意し、アーノルトはゲートをくぐっていった。





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