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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
348/621

episode348 「単純なこと」

「どうだ? 俺のコマは。人間にしては到達点まで達している。お前たちのような半端者では太刀打ちできまい」


ジャンヌの力を手にいれたヘルメスが得意気に両手を広げる。怒りも少し収まり、同時に冷静さも取り戻しつつあった。



「本部に居た女……」



クイーンがジャックの傷の具合を確認しながらジャンヌを睨み付ける。


傷は浅いようでとても深く、たまった血のせいで判断が難しい。ただひとつ言えるのはこのままでは確実に命は無いと言うことだ。



「ゼロ! 私は戦えない! あんたに任せていい? 任せたわよ!」


クイーンはゼロにそう言い残してジャックを引きずり戦線を離脱する。


「ふん、雑魚どもが。ここで潰してもいいが、この戦いを見逃すわけにはいかない。運が良かったな。せいぜい少ない人生を謳歌するといい」


その場を離れるクイーンとジャックを横目で見るヘルメス。すでに二人から興味はなくなったようだ。今はゼロとクイーンの戦いの行方のみに神経を注いでいる。



ヘルメスは非常に独占欲の高い男だ。だから他の兄弟たちが次々にコマを手にいれていくのを黙って見ているのは非常に辛かった。かといって中途半端なコマで満足するような男でもなかった。ようやく手にいれたジャンヌというコマは質も申し分なく、ヘルメスにとってこれ以上無いほど上質なコマだった。


そして今彼女と対峙しているゼロという青年、彼もまた上質なコマだ。ここで取り逃がせば他の兄弟に横取りされてしまう、それだけは避けたかった。冷静になったことでゼロへの殺意が欲求へと変化する。



ジャンヌは動きを完全に停止している。ロボットのように次の命令を待っている。踏み込むなら今しかない、そう感じるゼロ。



(隙だらけ……今なら倒せる。だがもしこれが誘いだとしたら? おそらく後数歩踏み込めばジャンヌの剣が届く範囲……)



踏み込む事によって起こりうる事象を頭のなかでシミュレートするゼロ。そしてその結果のほとんどが自分自身の死を招いている。そもそも命がけでジャンヌを戦闘不能にしたとしてもヘルメスがまだ残っている。ヘルメスの戦闘力は未知数だが、マリンやレヴィと同等と考えるとどうあがいても勝ち目は無い。ジャンヌとの戦闘後ならば尚更だ。



(せめてジャンヌを解放することができたならば……)



ゼロはヘルメスの紋章をちらりと見る。あの紋章の力でジャンヌが心を失っているのは明らかだ。ならばあの紋章さえ何とかすればジャンヌをもとに戻すことが出来るかもしれない。




「と、考えているのだろう?」




ヘルメスはいつの間にかゼロの隣まで移動していた。左耳に囁かれ、咄嗟に後ろに引くゼロ。そしてジャンヌから目を反らしたその一瞬の隙に彼女の蹴りをもろに浴びてしまう。



「カッ!」



内蔵が飛び出そうになるほどの衝撃を受けるゼロ。立っていられずにその場に座り込む。


「死んでくれるなよ、せっかく手加減させているんだから」


うずくまるゼロの髪を掴みながら囁くヘルメス。ジャンヌは一切表情を変えずに次の指示を待っている。


「さあ、続きだ」


ヘルメスはゼロを無理矢理立たせ、ジャンヌの前につき出す。足はふらつき、銃にはもう弾がない。あるのは一本のナイフのみ。それに引き換えジャンヌは体調万全。ヘルメスから宝剣まで与えられている。明らかに不釣り合いな戦いだ。だがそれでもヘルメスは楽しんでいる。単純に戦いが見たい事以上に自分のコマであるジャンヌが相手を圧倒する様が見たいのだ。



ジャンヌはふたたび動き出す。



(落ち着け、ジャンヌは今、自分の意思で行動していない……動きは実に単調で見切るのもたやすい。だが……)


ゼロの反応を上回る速度でジャンヌの剣が迫り来る。攻撃の軌道が読めても避けることができない。単純な話だが、頭が追い付いても体がついていかない。



結局ゼロはジャンヌにかすり傷すら負わせることなく、意識を断たれた。




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