episode 344 「銃使いと弓使い」
ジャックはホルダーから愛用の銃を取り出す。
「ジャック、なぜここにいる? 何てことは今は聞かない。だがこれだけは言わせてもらう、助かった」
ゼロはナイフを構えながらジャックに礼を言う。
「こっちこそ礼を言うぜ。お前らが来たお陰でようやく解放されたんだからよ」
聞きたいことは山ほどあったが、会話をしている時間は無い。クイーンの攻撃によって三匹ほど獣型を排除できたものの、まだ四匹ほど残っている。得たいのしれない異形型も健在だ。
「獣はクイーンに任せる。俺たちはあの化物を殺るぜ」
ジャックは異形型に狙いを定める。異形型はスライムのように体型を変えていく。明らかに銃を警戒している。あの形状からして銃での攻撃の効果は期待できない。ナイフでの攻撃も有効かどうか判断できない。かといって迂闊に近づいて試してみる気にもなれない。
「ジャック、あの二体は明らかに生物の枠を外れている。正攻法では攻略できないぞ」
ジャックも攻めあぐねているようで、引き金に指を置いたまま硬直している。
「ああ、俺が見たどの生物よりも水っぽいな、ありゃ」
そういいながらポケットから何かを取り出すジャック。
「なんだそれは。見たことが無い弾だな」
ジャックの手のひらにのった弾を見てゼロが尋ねる。
「自家製さ」
ジャックはその内の一つを銃に詰め、スライムに向かって放つ。弾はスライムに命中せず、その手前で炸裂する。破片とともに白い粉が吹き出す。
「小麦粉……か?」
「そう、小麦粉だ。ちゃんと消費期限切れのやつだぜ?」
ジャックはクイーンと共に以前作ったホットケーキの味を思い出しながら答える。
小麦粉はスライムを覆い、敵の粘りけを封じ込める。
「おまけに燃える」
ジャックは小麦粉の舞うスライムのもとにマッチの火を投げ入れる。大爆発が起こり、スライム型の魔獣は火だるまになる。
「吸うなよ、どんなん害があるか分かったもんじゃねぇ」
もくもくとスライムから出てくる煙を指してジャックが口もとを押さえる。
「それはいいが、あれはどうする?」
「あれ?」
ゼロは指を指す。ジャックの攻撃によって火の粉が燃え移った木を。
「あれれれれ!?」
ゼロは木の上のリザベルトを呼ぶ。
「リザベルト!」
「ああ、わかっている」
火はどんどんと燃え広がっていく。幸か不幸か火に飲み込まれて魔獣たちは命を落としていく。だがこのままではゼロたちまでそうなりかねない。
「クイーン! おいクイーン!」
ジャックが遥か彼方のクイーンに向かって声を飛ばす。
「何いってるかわかんないけど、どう考えてもあれに関係あるわね……」
燃えていく森を見ながら呟くクイーン。
「たく、何やってんだか……」
木を降り、ジャックたちの方へと駆けていくクイーン。
「とにかく逃げるぞ、ここにいては確実に死ぬ」
「逃げるってどこに? ここに出口がないことぐらいお前だって気づいてんだろ?」
ジャックを睨み付けるゼロ。
「な、なんだよ」
「いや、これでいい。ここに被害が広まれば必ずヘルメスがやって来るだろう。そうすれば逃げ出すチャンスもきっとある。このピンチを乗り切れればの話だがな」
話している間にも火は広がり続け、すでに四方を囲まれてしまった。
「ちっ! ここを抜けてもヘルメスとご対面ってか!? どっちにしろ危険じゃねぇーか!」
「口を閉じろ。お前が先ほど自分で言っていただろう。煙を吸い込めばそれで終わりだ」
死を運ぶ煙も、もくもくと流れてくる。ゼロたちは体制を低くし、煙に備える。おまけに森が燃える轟音と悪臭で注意力が散漫になる。そのせいで気がつかなかった。ドラゴンがこちらに近づいてきていることに。




