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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
340/621

episode 340 「森の正体」

足の所有権を取り戻したジャンヌは充分にヘルメスと渡り合えるだけの機動力を手にしていた。


「ずいぶんとお転婆な娘だ」


ヘルメスは左手を目の前につき出す。それを見たジャンヌは急いで体を引く。


「さすがに怖いか?」


左腕に付いている紋章を見るジャンヌの顔は警戒を通り越して恐怖していた。姉のこんな表情を見たことがないリザベルトは、この腕が尋常じゃない力を有している事を直ぐに理解する。ゼロも明らかに異質な気配を感じとり、ヘルメスと一定の距離を保ちつつ警戒を続ける。



宙に浮いたままの武器がこっちを向いている。今にも襲いかかって来そうだ。


「ジャンヌ、やつの能力を理解しているか?」


ゼロが尋ねるとジャンヌは小さくうなずく。


「あの紋章、恐らく異空間と繋がってるわ。あれに触れたらおしまいよ。どんなものでも奪われ、その空間に収納されてしまうわ。私の足のようにね」


ジャンヌはようやく所有権の戻った足をさすりながら答える。


「なるほど、そして奪ったものを自由自在に取り出すことができるというわけか……驚異だな」

「ええ、本当に」



足が動かない。手が震える。最強の殺し屋と最強の兵士が隣にいるというのにその震えは止まらない。強さとはかけ離れた何か、異質な力。いい表すのなら吹雪や地震のような抗いようのない不安。ヘルメスを前にしてリザベルトが最初に抱いた感情だ。ヨハンのような視覚的な恐ろしさは存在しない。だがそれが逆に恐ろしい。



「震えているな? 無理もない。それが人の本能というものだからな」



ヘルメスは指を鳴らす。すると宙に浮く武器はリザベルトに照準を合わせる。体が硬直するリザベルト。ジャンヌは直ぐに行動し、リザベルトの前に出る。ゼロはその場を動かず、ヘルメスの隙をうかがう。


ヘルメスの視線はゼロには向いていない。当然武器もこちらに飛んでくる気配もない。脇はがら空きでいつでも攻め込める。ここでナイフを銃に持ち替え、発泡するまで一秒もかからない。魔族とはいえ銃弾をぶちこめればある程度無力化できることはメディアの時に確認済みだ。


それでもゼロは攻めようとはしなかった。弾が命中するヴィジョンが全く見えなかったからだ。メディアの時のように切羽詰まっていたら、何も考えずに発泡していたかもしれない。だが今はリザベルトとジャンヌという心強い味方が付いている。余裕があるということが、逆にゼロの選択を奪っていた。



(どうする? 攻撃するならいまだ。だがもし外れたら? もし奴に何かしらのカウンター手段があったら? 俺の行動で絶望的な状況に陥ることも充分に考えられる……)



ゼロは考えを巡らせるが、ヘルメスはそこまで待ってはくれない。千載一遇のチャンスは直ぐに無くなり、ヘルメスの攻撃が始まる。


ヘルメスが腕を振るとそれが合図となり、待機していた槍や剣が一斉にジャンヌ目掛けて降り注ぐ。ジャンヌもまた神がかり的な身体能力でそれを回避し、切り捨てる。


攻撃を始めたヘルメスに死角はなく、すぐにゼロとリザベルトにも刃が飛んでくる。ゼロは辛うじて回避するものの、リザベルトはそうはいかない。切り傷は徐々に多くなっていき、槍が肩に突き刺さる。



「あっぐ!!」

「リズ!!」



リザベルトの叫び声にすぐに反応するジャンヌだが、自分への攻撃の対処でリザベルトの元に駆けつける事が出来ない。


「ゼロ君!」

「任せろ」


比較的攻撃の手が緩いゼロにリザベルトを託すジャンヌ。助けにいきたい気持ちをぐっとこらえ、攻撃がこちらに集中するようにヘルメスを挑発していく。



「あら、案外大したことないわね。一応魔族なんでしょ? メイザースの方がよっぽど手強かったわよ?」


ジャンヌの挑発で若干顔に変化がみられるヘルメスだったが、それでも攻撃が変わるほどの劇的な変化はみられない。


「安い挑発だ。俺がやつよりも優れていることは俺自身がちゃんと理解している。だが、お前は少々俺への敬意が足りないようだ」


ヘルメスは紋章を掲げる。すると紋章からまばゆい光が放たれ、森の木々が照らされていく。


「何のつもり? 目眩ましなんて効くとでも……」


ジャンヌは体勢を低くし、ヘルメスの光を回避する。ゼロはその隙にリザベルトを救出し、ヘルメスから離れる。



「済まない。迷惑をかけた」

「気にするな。やつめ、一体何を企んでいる?」



光を浴びた木々たちは激しく体を震わせる。まるでもがき苦しんでいるようだ。



「実はな、これらはただの木じゃないんだ。俺の力で感情を奪ってはいるがな」



ジャンヌの耳にはヘルメスの言葉が入ってこない。なぜなら目の前の木が巨大な魔物へと変貌を遂げていくからだ。



「悔い改めるなら今のうちだ、何せこいつらは知性がない」



「……なるほどね」



木々は様々な形の魔物となっていく。獣のタイプもいれば鳥や植物のタイプもいる。だがそんなものは全く目に入らない。



「まさか本当に居たなんてね」



木々が集まり、一つの巨大な生命へと変わっていく。


巨大な体をさらに巨大に見せる二枚の翼、ゆうにジャンヌの身長を上回る無数の牙、大地を震わせる二本の足、眼光だけで小動物を失神させられるだろう二つの眼。



「ドラゴン……だと!?」



ゼロもその巨大な生物を見上げる。災厄の象徴、伝説の生き物。ドラゴンが姿を現した。










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