episode 34 「帝都モルガント」
二日後、物資をのせた船が駐屯所までやって来た。
リザベルトは乗組員たちに事情を説明する。
「私も一緒に向かいたいところだが、まだ任務中だ。屋敷の者には言伝てをしておく。気を付けてな。」
リザベルトに礼と別れを言い、船に乗り込む三人。イアンたちも手を降って見送ってくれている。
船は一度海に出て、迂回して帝都近くに入港するようだ。
リザベルトは船が見えなくなるまで、それを見つめていた。
運河を抜けてからは船は殺風景な岩山地帯沿いに進んでいた。
再びの船旅にテンションが上がるレイア。そしてテンションが下がるケイト。
物資運搬用の船のため、休憩できるような船室はなく、三人はブリッジで暇をもてあそぶ。
船長が船を自動操縦に切り替えたのを確認し、操縦室を訪れるゼロ。
「リザベルトの姉たちは優秀な軍人なのか?」
ゼロの質問に船長は一服しながら答える。
「優秀なんて言葉で片付けられるモノじゃないね。大佐に中将だぜ?中尉もよくやっているけどまだまだあのお二方には到底及ばないね。」
「強いのか。」
ゆっくりと深々首を縦に降る船長。
「特にジャンヌ中将は帝国指折りの騎士だね。」
そうか、と小さく笑うゼロ。その凍てつくような笑い顔に思わず背筋が凍る船長。
「あんた、手を出そうなんて考えちゃいないよな!?」
「まさか、俺は反逆者でも戦闘狂でもない。そんなリスクは犯さないさ。」
操縦室を後にするゼロ。外で待っていたレイアに詰め寄られる。
「ジャンヌとローズはいい人ですよ。」
わかっている、とレイアの肩に手を置く。
「彼女等が例え味方でも、帝国軍は味方じゃない。相手は軍人だ。いつ敵に回ってもおかしくはない。その時はどちら側につくのかよく考えておくべきだ。」
ゼロの意味深な言葉になにも答えられなかったレイア。ケイトの背中を擦っているゼロを見る。リザベルトたちは友達だ。ゼロとケイトも大切な仲間だ。どちらか一方を選ぶことなんてできない。
(考えていても答えは出ませんね。今は目の前の事に集中しましょう。)
小さく拳を握るレイア。
しばらく進むと段々と景色が変わってきた。
地形は少しずつ穏やかになり、所々旅人たちの姿も見受けられる。
「ここでいい。」
「いいのか?基地まで送るぜ?」
「構わない。助かった。」
そう言ってゼロたちは近場の沖で船を降りる。ここからは帝都まではそう遠くないはずだ。
「何で途中で降りたの。私歩きたくない。」
ケイトが駄々をこねる。
「軍人共の巣窟にわざわざ飛び込みたいのか?何かあったら俺一人ではお前たちを守りきれない。それでもいいならもう一度乗るが?」
ケイトはぶるぶる首を横に降る。
地図によると帝都はここから南東に30キロほどの地点に位置するようだ。道も整備されており、今日中には着きそうだ。
裸を見られて以来ケイトはゼロの事を警戒しているようで、もう手を繋ごうとはしない。その代わりレイアにべったり寄り添っていた。
道は整備されていても、どういうわけかやたらと獣が彷徨いている。いや、獣というよりもモンスターに近い。道行く人々にとっては当たり前の光景のようで、そのモンスターたちを慌てることなく対処している。
当然ゼロに敵うモンスターなど現れないので危険はないのだが、モンスターとはいえ至るところで殺されていくのを見るのは、レイアとってとても気持ちのいいものではなかった。
「殺す以外に方法は無いのでしょうか。」
レイアが誰にでもなく問いかける。
「殺さなければ仲間を呼ばれる恐れもある。やらなければこちらがやられるんだ。」
ゼロが答える。
もちろんわかってはいた。それがモンスターではなく、人間でも同じ事だという事も。
やがて目の前に大きな山と城が見えてきた。
「あれが軍が治める国、その中心地、帝都モルガントか。」
大提督アドミラルが治める国、モルガント帝国。組織以上に大きな組織。その大きな存在が三人を待ち受ける。




