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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
338/621

episode 338 「いざないの森」

彼ら以外生き物の姿は見当たらない。木が生い茂ってはいるものの、とてもそれは生き物とは思えない機械的な行動を続けている。ここへさ迷い混んだ者たちを案内し、鉢合わせ、戦わせる。ここはそう言う風にできていた。そして今、また戦いが始まろうとしていた。



「さて、いよいよ大詰めだ」



その様子を見守るのは魔女の第五子、ヘルメス。ジャンヌを服従させるべくこの森に封じ込めたのだが、刺客を送れど送れどジャンヌが敗北する様子はない。そこでジャンヌと同じ立場であるモルガントの兵士たちを大量に用意したのだった。



「さすがに死んじゃうんじゃないかしら?」


魔女の第三子であるマリンがヘルメスに話しかける。彼女が彼らをここに運んだ張本人だ。



「心配はない。そうなりそうなら俺が助けに入る。そうなれば奴は俺に服従せざるを得ない」


ヘルメスは体をうずうずさせながら戦いの様子を見守る。


「面倒ね」

「だが、それがいい」


簡単に相手を服従させられるメディアにとって、ヘルメスの考えは理解しがたいものだったが、彼の楽しそうな横顔を見るとメディアは役目を終えたと自らの住み処へと戻っていく。



「一つ忠告しておくわ」

「なに?」


メディアは兵士たちに紛れ込んでいる一人の青年を指差す。


「彼には気を付けなさい。マリン姉さんやレヴィ兄さんと対峙しながら生き残ってる」


その言葉を聞いて目を見開くヘルメスだが、その目はすぐに物欲しそうなものに変わる。



「なら、是非とも手にいれたいね」




一方、魔族たちに観察されているとも知らないゼロは苦戦を強いられていた。いくら満身創痍とはいえジャンヌは恐ろしく強く、終始ゼロを圧倒し続けた。


(身体能力はジャンヌの方が圧倒的に上……対抗できるとしたら機動力くらいか。ならば攻撃を避け続け、相手の体力消耗を狙うしかない)


威嚇射撃を続けながらジャンヌと一定の距離を保つゼロ。



「実につまらない戦い方をするな」


眺めているヘルメスは文句をたれ始める。そして思い付いたような顔をすると、左手の紋章から何かを取り出す。


「一時的にお前の力を返してやろう」


そう言うと取り出した何かをジャンヌのいる方向へと投げる。それはジャンヌの足に吸い込まれていき、彼女の足を万全の状態へと戻す。



「お前の足の所有権を戻してやった。これで少しはまともな戦いが見られると期待しているぞ?」


ヘルメスの思惑通り、ジャンヌの機動力は比べ物にならないくらい向上した。


「ッ!」


ゼロは威嚇射撃をやめ、攻撃の回避に全神経を注ぐ。そうしなければあっという間に命をとられそうだ。


「ジャンヌ! 目を覚ませ!」


声をあげるゼロだが、ジャンヌは一向に気が付く気配がない。兵士たちを次々と蹴散らしながらゼロに迫ってくる。



「ははは! 愉快だな! だがまだなにか足りない……ジャンヌにせよゼロにせよ、まだ力を隠しているはずだ。あの程度ではメイザースは殺せないし、マリンやレヴィから逃げ切ることも出来ない。何かあるはずだ……」


目の前の戦いに違和感を覚えるヘルメス。二人の力の源を探る。だがヘルメスの能力ではいくら考えても答えがでない。


「仕方がないな、しゃくだがマリンの元を尋ねるとするか」


そう言うとヘルメスは二人の戦いを目に焼き付けながらワープホールの向こうへと旅立った。



いざないの森は血の臭いが充満していた。送り込まれた兵士たちはゆうに百を越えていたが、そのほとんどがジャンヌによって切り伏せられ、既に絶命した者も少なくはない。それでもメディアによって操られた兵士たちは怯むことなくジャンヌに突撃していく。


(く、このままでは被害が広まる一方だ。かといってジャンヌを止めることも出来ない。俺は一体どうすれば……)


頭を抱えるゼロだが、後方から聞こえてくる足音にさらに神経をすり減らせる。


(新たな兵士か……はたまた魔族か、どちらにせよ現状が好転することはまずない……)


ジャンヌとの戦闘を放棄し、聞こえてくる足音に意識を向けるゼロ。やがてその姿が見えてくる。



「やはりここにいたか……!」

「リザベルト!」



現れたのはリザベルトだった。リザベルトはゼロを見て、虚ろな兵士たちを見て、そして最後に姉であるジャンヌの姿を確認する。


「姉上……」

「気を付けろ、ジャンヌは正気を失っている」


ゼロが忠告するもリザベルトは躊躇することなくジャンヌの元へと歩いていく。


「目を覚ましてください!!」



リザベルトは容赦なくジャンヌの頭に拳をぶつけた。

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