episode 322 「抗えぬ闇」
圧倒的な力に抗えないガイア。握りしめた剣で攻撃を仕掛けるが実体がないのか、まったく手応えがない。
「准将!」
ローズの叫び声ももう届かない高さまで持ち上げられてしまった。
「この俺様の空間にどうやって入ってきた?」
先程の声が問いかけてくる。
「貴様ら魔族が作ったゲートをくぐってきた!」
ガイアは臆することなく言い放つ。だがそれがまずかった。
「なるほど。ヨハンの後を追ってきたのか。身の程知らずのクズどもが」
ガイアは遥か上空から投げ出される。真っ暗なためどれ程の高さかもわからないが、この背筋をめぐる恐怖が並大抵の高さではないことを伝えてくる。
「貴様だと? 誰に向かって言っている?」
さらにガイアの体に負荷がかかる。体がバラバラになりそうだ。
『五月雨!』
空中で剣を振るガイア。徐々にだが落下速度が落ちていく。が、それでも凄まじい衝撃音とともにガイアの体は地面に叩きつけられる。
「准将! 大丈夫ですか!?」
急いで駆け寄ってくるローズ。
「が……」
体の左側を庇ったのか、右手は完全に折れ、左足もおかしな方向に曲がっている。
「うかつに近づくな! まだ近くにいるぞ!」
ローズに吠えるガイア。
「近く? 笑わせるな、この空間そのものが俺様だ」
空間が収縮していく。ガイアとローズはそれに巻き込まれ、小さく押し固められていく。
「がっ!」
「くっ!」
二人は体全身を全方向から圧縮されていく。
「見ろ、あれは帝国の英雄、ガイア・レオグールだ。お前がまったく歯の立たなかったジャンヌ・ヴァルキリアに肩をならべる存在だ。そのガイアがあの様だ。いい加減諦めてオルフェウスに挑むのはやめたらどうだ?」
オルフェウスによって蹂躙されるガイアを闇の外から見つめる二人の男性。その内の一人が隣の男に話しかける。
「断る。俺はあの怪物の下に付く気はない」
隣の男が答える。
「パーシアス、何事だ?」
二人の背後から男が現れる。
「イルベルトか。なに、あの巨人におまけが付いてきただけだ」
組織の殺し屋、パーシアスが答える。
「アーノルト、いつまで意地を張っている? いくらお前が魔族の長と知り合いだからといってあのオルフェウスがいつまでも手加減してくれると思うか?」
イルベルトはオルフェウスを指差し告げる。
「そうだな、いずれ俺は殺される。だがな、死に場所は俺が決める」
かつて組織最強の殺し屋と呼ばれた男はオルフェウスを睨みつけてそう答えた。
「何あれ!」
遅れて到着したシオンが闇の塊であるオルフェウスを発見して叫び声をあげる。
「何だ? また侵入者か?」
パーシアスがシオンの声を聞き付け様子を伺うが、その姿を見たとたん萎縮してしまう。
「あ、あれはシオン・ナルス! なぜヤツがここに!」
後ずさりをするパーシアスだが、シオンに見つかってしまう。
「あ、あなた! ちょっと聞きたいことが!」
「くっ! 見つかったか! 退散するぞアーノルト! イルベルト!」
パーシアスはアーノルトの服をつかみ、イルベルトの作り出したワープホールへと駆け込む。
「あ! ちょっと待ってよ! ……もう!」
どこかで見たような顔だなと思いながらも気持ちを切り替え、オルフェウスの方へと進むシオン。
「准将と大佐が居ない……きっとあの中ね」
シオンは二人を助けるべく、オルフェウスに立ち向かう。




