episode 318 「モルガナVSヨハン」
嵐のようにヨハンに叩きつけられる数々の魔法。ヨハンの加護をもってしても、それは防ぎきれない段階まで来ていた。
「僕が持ってる加護は十や二十じゃ無いんだぞ! こんな攻撃……」
ヨハンの叫びに答えるかのように上空から岩の塊を作り出し、ヨハンの頭上に叩きつけるモルガナ。
「その加護って私たちから与えられたものでしょ? だったら私に敵うわけ無いじゃん!」
「お前たちの力だって元々はママの力だろ!」
激しくぶつかり合う両者。次元の違う戦いを前にしてゼロたちは、空を見上げることしかできない。
「あの子が圧されてる……」
シオンは驚愕しながら超常現象を見つめる。
「か、神なのだ! 神が我々を助けてくれたのだ!」
ヴィクトルが叫ぶ。姿は見えないが、モルガナを感じ取っているのかもしれない。
「とにかく離れよう。ここにレヴィは居ない」
ガイアの指示でゼロたちは人々の救出に向かう。
「大体なんでお前たちは僕たちの邪魔をするんだ!」
ヨハンの両手から黒い霧が噴射される。近くを飛んでいた鳥はその霧に触れただけで絶命し、地面へと落ちていく。
「それはあなたたちが侵略者だからでしょ!」
モルガナの持った杖からは、台風のような暴風が吹き荒れ、霧をヨハンのもとへと押し返す。岩石でコーティングしたヨハンの体はそう簡単に朽ち果てたりはしないが、それでもヨハンのプライドのほうはズタボロに引き裂かれた。
(なんで僕が負けてるんだ! これは遊びなのに……これじゃあまるで)
モルガナはなんとも余裕そうな顔をし、まるで新しい技を試しているかのようなワクワクした表情でヨハンに攻撃を仕掛けている。
(僕が遊ばれているじゃないか……!)
ヨハンの肩が地面につく。その衝撃で帝都全体が大きく揺れ、建物が崩壊していく。
「あ、やりすぎちゃった!」
モルガナは慌てて杖を振る。すると建物の崩壊はおさまり、時間を巻き戻しているとしか思えないように、建物がひとりでに直っていく。
「化……物め!」
ヨハンは倒れながらモルガナを睨み付ける。
「あなたほどじゃないわ」
モルガナは止めを刺すべく、杖に力を込めていく。
(嫌だ嫌だ死にたくない、死んじゃう、死んじゃうよ!)
ヨハンは目をつぶって顔を覆う。モルガナに対抗するだけの力も心も残っていなかった。
(助けて! お兄ちゃん、お姉ちゃん!)
必死に他の兄弟にテレパシーを送るも、誰も返してこない。
レヴィは怒りと傷のせいでまったく気がついていない。メディアはそもそも関心がない。オルフェウスは自分以外に興味がない。ヘルメスはジャンヌに夢中でそれどころではない。メイザースはもうこの世に居ない。
(嫌だよ……)
涙を流すヨハン。その顔は魔族のそれではなく、ただの幼い赤ん坊のものだった。だがそれでもモルガナは攻撃をやめようとはしない。魔族というものがどういうものなのか、二千年前から知っているからだ。
「お休みなさい、ヨハン。次は人間に生まれ変わるんだよ?」
モルガナは頭上に小型の太陽を作り出した。周りの空気が焼き尽くされ、地上までも灼熱の熱気で支配されている。
「少佐!」
元々熱に弱いシオンは直ぐに倒れ、リザベルトによって介抱される。
「ごめんね……リズちゃん」
そう言葉を振り絞り、気を失う。
「くそ! 何なんだこの熱気は!?」
リザベルトが空を見上げるが、そこには燃える塊しか映らない。
「だがあれならあの魔族を倒せるかもしれない」
ローズが期待を込めた声色で呟く。その一方でガイアとゼロは不穏な空気を察知していた。
「ゼロ、何か感じないか?」
「ああ、何か来る」
モルガナの太陽がヨハンに向けて放たれたその時だった。空が割れ、一人の魔族が姿を現した。
「随分と可愛がってくれているじゃないか、私の弟を」
その一言一言が空気を震わせ、モルガナの肌を刺激する。
「一番意外なのが現れたわね……」
モルガナに似たいかにも魔法使いといった格好、その場の空気を支配できるほどの威圧感、魔女の第一子、マリンだ。
マリンは手をかざす。するとモルガナの太陽は跡形もなく消し去る。
「お前はなぜ私が怠惰なのか知っているか?」
マリンは指をならす。するとモルガナの周りに渦巻いていた魔法の力が全て消え去る。
「母は嫉妬したのだ、娘である私の力に。そして私に怠惰の力を封じ込めた。その強欲さによって祖国を滅ぼしておきながら、傲慢なためお前たちに封じ込められた」
モルガナは杖を握りしめる。
「あっそう。それで何かしら?」
マリンはヨハンの体に腰かける。
「つまりだ。何が言いたいかというと」
マリンは手を叩く。するとモルガナの体が急に力を失い、地上を目指してまっ逆さまに落ちていく。
「お前よりも私は強い」
マリンはあくびをしながらそう答えた。




