episode 313 「怒りの一撃」
ジャンヌが飛ばされたのは森の中だった。
(どこかしら?)
アドレナリンが切れ、外れてしまった足がひどく痛む。
(とにかくどこか休めるところを探さないとね)
落ちていた棒を拾い上げ、杖がわりにして森の中をさ迷うジャンヌ。自分の感覚だけを頼りに進んでいく。
(ヘルメスが作った扉……ならここにも魔族がいる可能性が高いわね)
魔族は魔族のいる場所へとワープできる、ゼロの立てた仮説に従えばここも例外ではない。おそらく他の魔族が存在、もしくはその魔族のゆかりの土地なのだろう。
(いま魔族との接触は危険すぎるわね)
ジャンヌは森の中に茂みを発見し、そこに身を隠すことにした。
外れた足を無理矢理はめ直す。激痛が走り、思わず声が溢れてしまう。だが、それでも足に感覚は戻らない。ヘルメスの言っていた通り、この左足の所有権は奪われてしまったようだ。
(困ったわね……ヘルメスを殺せば所有権が戻るのはお決まりのパターンだけれど、いまの私にそれが出来るのかしら?)
体が動かない、武器もない、そもそもここがどこかもわからない。わかっているのは今非常に追い詰められているということだけ。
(……本当にまいったわね)
「良かったの? あのお姉ちゃんを逃がしちゃって」
ヨハンがヘルメスに尋ねる。
「構わんさ。あそこで死なれては勿体ない。それに転送先は輪廻の森だ。決して出ることはできない」
ヘルメスは宝物庫からジャンヌの剣を取り出し、それを眺めながら答える。
「弱りきったところを襲い、服従させてやる。ああいうお高くとまった女を屈服させることほど愉しい事は他に無い」
いやらしく嗤うヘルメス。
「ヨハン、お前いつまでここに居るつもりだ? もう一人居るのだろ? そいつもここに連れてこい」
一人の時間を邪魔されたくないヘルメスは、ヨハンに出ていくように告げる。
「わかったよ。でももう死んでるかもしれないよ?」
「構わんさ。死んでいたらいたで使い道はある、剥製とかな。ふは、考えただけでワクワクする。雪女の剥製なんて持っていないからな」
ヘルメスの顔を見て、これ以上ここに居ると自分が痛い目を見ると判断したヨハンはそそくさとこの場を去る。
「まったく、嫌な趣味だね」
ヘルメスに聞こえないように呟くヨハン。ワープホールを使い、自らのすみかであるファウストへと戻っていく。
ファウストへ到着したヨハンは直ぐに異変に気がつく。
(雪女のお姉ちゃんが居ない……もう目を覚ましたんだ。それに……)
複数人の気配を感じとるヨハン。
(加護を受けている人間は居ないみたいだね。何だか僕たちに似た他の力は感じるけど)
満面の笑みを浮かべるヨハン。
(嬉しいな。皆僕と遊んでくれる。それに何だか丈夫そう! ここの人間たちは脆すぎて飽きちゃってたんだ)
姿が見えるよりも先に銃声がし、弾が飛んでくる。
「わぁ! 撃ってきた!」
避けながらはしゃぐヨハン。すぐさまゼロの姿が見えてくる。
「貴様、魔族だな?」
「あぶないなぁもう! 順番が違うよ、僕が魔族じゃなかったらどうするつもり?」
ヨハンは困った表情を浮かべながらゼロに問いかける。
「どのみちここにいる連中は皆犯罪者だ。俺が気にすることではない」
ゼロはヨハンを魔族と確信し、第2の弾丸を放つ。ヨハンは手を前に出す。すると見えない壁が出現し、ゼロの弾丸を受け止める。
「加護、いや貴様ら魔族の力か」
ゼロは怯まず第3、第4と連射する。
「そう、僕はここに踏み入れた人の加護を食べちゃうんだ」
ヨハンの作り出した壁はゼロの攻撃を全て弾き返す。
「なるほど、それがファウストの正体か。食べた加護を自由に使えるのだとすれば驚異だな」
ゼロは無駄だとわかっている攻撃を続ける。
「無駄だよ、銃じゃ僕とは遊べない」
「だろうな」
突如背後から強烈な気配を感じ、振り返るヨハン。
「レヴィは何処にいる!!」
ガイアの怒りの一撃がヨハンに炸裂した。




