episode 31 「オアシス」
再び帝都を目指す三人。ほとんど砂漠と変わらない道を行く。灼熱の太陽に照らされ、体力を消耗する。おまけに道はほとんどかわり映えせず、どのくらい進んでいるのかも分からない。
サンバーンから用意してきた水はとっくに底を尽きていた。
「あつい!つかれた!水!」
ケイトが駄々をこね始める。
「口を開くな。体力を温存しろ。地図によると近くにオアシスが有るらしい。そこまで耐えろ。」
ゼロは地図を睨み付ける。
「そもそも歩いて行くのが間違ってる。」
ケイトは完全に目が据わっている。
「乗り物は危険だ。組織が居合わせた場合、逃げ場が限られてくる。」
「今!この状況の方が危険!」
こんな時フェンリーがいたらなと考えるゼロ。
レイアは黙って二人について行く。体力温存もある。だがその他にも理由はあった。
(わたくし、愛の告白を・・・)
ゼロとどんな顔をして言葉を交わせばいいのか分からなかった。
(ゼロさんはあの言葉を聞いていたのでしょうか?)
ゼロはあれ以来その話をしてこない。それどころか意識的にレイアと距離を置いているようだ。
(ケイトちゃんがいてくれて本当によかった。)
息がつまりそうなこの状況で、目の前で駄々をこねるケイトの存在はとてもありがたかった。
しばらく進むとゼロの言った通り小さいながら水場があった。それを見つけるや否や、どこにそんな力があったのかケイトは全力疾走で水へと向かう。
ゼロは木陰に腰を下ろし、レイアは水筒に水を汲む。
「ゼロさん、水です。」
「ああ、済まない。」
水筒を渡そうとしてゼロの手に触れてしまうレイア。
「きゃ!」
驚いて水筒を落としてしまうレイア。
「どうした。どこかぶつけたか。」
「な、何でもないです!汲み直してきます!」
真っ赤になった顔をゼロに見せまいと水場に走るレイア。
(わたくし、完全にゼロさんを意識してしまっている・・・)
「レイアの笑顔より美しいものなど、この世には存在しない。」
ゼロの台詞が頭の中を駆け巡る。
キャーキャーと一人悶えるレイア。
まさか、避けられているのか。そんな事を考えるゼロ。
(考えてもみれば当然か。俺は元々レイアを殺すために近づいたんだ。そんな奴から美しいだなんて聞かされたら警戒するが普通だな。)
ケイトは我関せずで一人水浴びを楽しんでいる。
今夜はこのオアシスで野宿することにした。
サンバーンで調達したテントを張るゼロ。レイアとケイトは晩飯の用意をしている。
「レイアは料理上手。羨ましい。」
「ケイトちゃんもたくさん練習すれば必ず上手になりますよ。」
「どうやって練習するの?」
「作り続けるんです。大切な人の事を想って、何度も何度も。」
レイアは屋敷で過ごした日々を思い出していた。
両親が亡くなってからは自分でも家事をし始めた。必死に止める執事を振り払って自ら厨房にたち、包丁を握った。凍えるような冬の日も自ら水に手を突っ込んで洗濯をした。
「レイアはいいお嫁さんになれる。私はなれない。」
ケイトは自分の女子力のなさを嘆き、うつむいてしまう。
レイアはケイトの頭を撫でる。
「わたくしもあなたくらいの年の頃には全然ダメダメでしたよ?これから頑張ればいいのです。」
すくっと立ち上がるケイト。
「私、やる!」
そう言うとケイトは洗濯物に手をかける。そこにゼロの服がないことに気づき、木陰で落ち込む男の元に向かう。
「ゼロ。」
「な、なんだ。」
「服脱いで。」
「は?」
「今すぐ!ここで!」
「や、やめ。」
無理やりゼロの服を剥ぎ取り、満足げに持ち去るケイト。
パンツ一丁で震えるゼロに毛布をかけるレイア。
「ケイトちゃん、張り切ってますね。」
ゼロのとなりに腰かける。レイアが近すぎたため少し距離を開けるゼロ。レイアはムッとして距離を詰める。するとゼロはまた距離を開ける。
「なぜ避けるのですか!」
「避けてなどいない。ただ、お前が嫌なのではと思ってな。」
(やはり、聞いてはいなかったのですね。)
少し残念そうなレイア。ゼロの手を握る。
「そんなことはありません。わたくしはあなたにとても感謝しているのです。慕う事はあっても嫌う事などありません。」
頬を赤らめながらゼロを見つめる。
「レイア・・・ありがとう。」
「・・・ニコルさんとキスをしたのは許せませんけど。」
「それは言うな。」
ハハ、フフ。
笑い合う二人。ケイトはやれやれ、といった表情でそれを眺める。
今夜は満月だ。ケイトは空を見上げる。
「おばあちゃんも見てるかな。」
少々ホームシックなケイトであった。




