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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
309/621

episode 309 「ヨハンVSジャンヌ」

ヨハンは切れていたはずの口でニヤリと笑う。


「強いね。羨ましいや。ぼくこう見えてまだ小さいから、他の兄弟と違って力がないんだ」


一体いくつなんだろうという疑問が浮かぶが、そんなことを口にできるほどシオンに余裕はなかった。


「力がない? あんな咬合力がありながらよく言えたものね」


ジャンヌはシオンの拳をちらりと見ながら、赤ちゃんにしては似つかわしくないきれいに生えそろった歯を睨む。


「それは仕方がないよ。だって歯が無いと何も食べられないじゃない」


そういいながらヨハンは倒れている男を頭からむしゃしむしゃと齧りつく。男の頭蓋骨は嫌な音をたてながら砕け、ヨハンは中から現れた脳みそをペロペロと舐め始める。



「お……」


シオンは吐き気を催ながらも必死にこらえ、何をしてくるかわからないヨハンの様子を伺う。ジャンヌは無防備な赤ん坊に近づく事が出来ず、剣を握りしめながら守りを固める。



「この味! この食感! この匂い! そしてのどごし! 君たち人間は知らないんだよね? もったいない!」


ヨハンは夢中で男の脳みそに貪りつく。その間男は手足をばたつかせているが、例のごとくそんなことではヨハンは離れない。



「ふー、あとはとっておこう。おやつにね」


ヨハンは血だらけの顔を拭い、再びジャンヌたちの方へと歩いてくる。


「僕はね、腕力は無いけれどママにもらった力があるんだ。他の兄弟にはない特別な力だよ」


ヨハンは手を大きく広げる。すると嵐が巻き起こり、ジャンヌたちを吹き飛ばす。


「きゃあ!」


吹き飛ばされるシオンの服をつかみながら、もう片方の手に握った剣を地面へと突き刺し、飛ばされまいとして必死にこらえるジャンヌ。



「どうしてここは加護が使えないか知ってる? それはね、僕が食べちゃったからなんだ」


ヨハンは小さな手をジャンヌに向ける。すると今度はその手のひらから炎が放たれ、ジャンヌの方へと飛んでいく。


「あ、危ない!」


シオンは手のひらから冷気を放ち、炎に向けて飛ばす。炎はジャンヌの手前で減速し、二人はなんとか丸焼きを免れる。


「助かったわ少佐」



ジャンヌは一言礼をいい、剣を地面から抜く。



「そしてね、僕はね、食べた力を自由に使えるんだ」


ヨハンは指をならす。すると地面が捲れ上がり、ジャンヌたちめがけて襲いかかる。


「はぁああああ!」


ジャンヌは叫びながら折れた剣で地面を凪ぎ払う。そして地面が速度を落とすと、今度はシオンが前に出る。



『氷牙!』



シオンは無事な左の拳で地面を殴り、破壊する。地面の破片がヨハンめがけて飛んでいくが、またしても風を操り、それを回避する。


「無駄だって。僕はここに居る全員の加護を使えるんだよ? いくらお姉ちゃんたちがつよくたって……」



ヨハンが話に夢中になっている隙に斬りかかるジャンヌ。完全に隙をつき、完全に一撃を入れたかと思われた。だがしかし、ヨハンは信じられない速度でそれを感知し、小さな手で受け止める。


「嘘でしょ……まさか」


冷や汗をかくジャンヌ。この反応速度、この力強さ、そして何よりヨハンから放たれるオーラ。すべて自分の知っているものだった。



「そう、もちろんお姉ちゃんの『強さ』っていう加護も僕のものさ」


そう言うとヨハンはとても小さな手をさらに小さく握りしめ、ジャンヌの腹を殴り付ける。



「ごはっ!!」


ジャンヌは吐血しながら吹き飛ばされ、地面を転がる。


「中将! そんな……嘘」


シオンはジャンヌに急いで駆け寄るが、既にジャンヌの意識は無い。



「あーあ、壊れちゃった! ま、いいや。おもちゃはもう一つあるしね」


ヨハンの周りに風が、炎が、水が、雷が、様々なものが渦巻いている。


「少しはもってね? 雪女のお姉ちゃん」


ヨハンは、とても赤ん坊からは出ないであろう笑顔をシオンに向ける。


シオンはジャンヌの体を持ち上げ、戦いに巻き込まれないように端に寄せる。そして砕けた拳を無理矢理握りしめ、ヨハンを迎え撃つ。


「もう怒った。おしりペンペンじゃ許してあげない」


シオンの周りに冷気が渦巻く。


「氷牙拳法の真髄、味わわせてあげる!」



それを聞いてヨハンはさらに笑顔を増す。


「うんうん。楽しみだなぁ、どんな味がするんだろ」


ヨハンの口からよだれが溢れた。







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