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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
305/621

episode 305 「プライド」

テノンからモルガントへと向かうためには船を使う他に無い。例のごとくフェンリーの力で簡単に船を用立てることができた。


「あら、あなたやるわね」


ジャンヌも感心してフェンリーの肩を叩く。


「どうも」


フェンリーは素っ気ない返事をする。フェンリーは悲しげな表情をしている。フェンリーだけではない。ゼロもレイアもワルターもどこか顔は暗い。彼らは一人の少女の事を思い出していた。



(ケイトちゃん……)



船上でげろげろしていたケイトのことが頭に浮かぶ。自分たちも生きるのに必死でケイトの事を案じている余裕などなかったが、ようやく心にゆとりができたことでどうしてもケイトの事が心配でたまらない。


だが、どうすることも出来ない。どこにいるのかもわからない。無事でいるのか、そうでないのかも。



船に乗り込むゼロたち。船長の話によるとこの辺りには凶暴な海獣や凶悪な海賊が度々目撃されているそうなだ。どうりで船の装備が充実している。船長が雇ったのか、手練れと見える傭兵も数人乗り込んでいる。


「さあ、来るならこい!」


そう意気込んでいた船長だったが、それらしき者たちは全く現れなかった。本能的に悟ったのかもしれない、この船に手を出すのは危険だと。


「あら、もうついちゃったの? 一応少し期待していたのだけれど」


肩をおとすジャンヌ。ファウストへ乗り込む前の肩慣らしがしたかったようだ。



帝国へ入ると明らかにガイアに対する視線が今までのもとは変わっている。


ガイア・レオグールといえば帝国の英雄だ。だが今では人殺しの犯罪者、皆の中ではそう認識されている。冷ややかな目で見るものも居れば、今にも石を投げつけようとする者も居る。ジャンヌが一緒に歩いていなければ恐らくそうなっただろう。



「とりあえず私の家に行きましょ?」


ガイアの表情に気付いてか、足早に屋敷へと向かうジャンヌ。扉を開けると、そこにはいい加減退屈に耐えきれなくなったセシルが顔を大きく膨らませて待っていた。



「もう! おそいですわ! どれだけわたくしを待たせるのかしら!? リースもシオンも行ってしまうし、わたくし一人でどうしようと……」



ジャンヌの後ろに隠れている人物を見つけ、言葉を詰まらせるセシル。


「レイア!」


「お久しぶりです」


セシルは屋敷を飛び出し、レイアに抱きつく。


「良かった! 本当に良かったですわ! あなたが無事で……本当に」


セシルは溜め込んでいた涙を一気に放出する。一通り泣き終えると、ようやくゼロたちの存在に気がつく。



「あら、あなた方いらしたの?」

「こいつ……」


フェンリーが悪態をつく。セシルは何度も何度も見直す。しかしいくら見直してもそこにオイゲンの姿はなかった。


「大丈夫だ。俺たちも皆生きていた。きっとあいつもどこかで生きている」


心を読んだかのようにゼロがセシルに語りかける。


「そうですわね。わたくしが信じないで誰が信じるんですの! わたくしは信じますわ! 信じて信じて信じぬいて……そして待ちますわ」


ようやくセシルに笑顔が戻った。



リースを客室に寝かせ、ファウストへと乗り込む作戦をたて始めるジャンヌ。ファウストの名を聞いたワルターの反応は、笑えるほど予想通りだった。


「無謀だね、無謀すぎる。そもそも作戦になっていない」


ワルターは作戦を断固反対する。


「あら? 上官に逆らうのかしら?」


ジャンヌは一歩も譲らない。


「いや、おれはワルターに同感だぜ」


フェンリーはファウストの事など知らないが、ここに魔族が居る可能性があることが分かると、ワルター同様に反対する。



「姉上、お言葉ですが私も同感です」


ローズとリザベルトも反対のようだ。


「そもそも作戦とは成功させるためにあるのです。そんな一か八かの行動は自殺行為と呼ぶのです」


ローズは強い口ぶりで姉を攻め立てる。


「あら、言うじゃないローズ? あなたは私が負けるとでも?」

「現に一度負けているではないですか」


ジャンヌに対して一歩も引かない。それはある意味本当だった。レヴィとは形上引き分けとなっているが、一対一では押しきることは出来ず、レヴィがあのまま戦いを強行していたら確実に命を奪われていた。



「リベンジをしたいお気持ちはわかりますが、意地を張られては私たち全員の命がないです」



ローズの言い分はもっともだった。だからこそジャンヌも言い返したりはしない。


「……わかったわ。あなたの言うとおりよ」


ジャンヌは優しい声でローズに話しかける。


「作戦は建て直しましょう。明日、シオンを迎えにいきましょう。そのあとでもう一度皆で話し合う、それでどう?」


あまりにも簡単に姉が引き下がったので多少違和感を感じたが、気が変わってしまっては困るので余計なことは考えずに意見に賛同するローズ。


「はい! ありがとうございます!」



ゼロ、レイア、フェンリー、ワルター、ガイア、ヴィクトル、シェイクの7人は一晩この屋敷に厄介になることにした。


ジャンヌは疲れが出たのか、一番最初に寝床につき、すやすやと寝息をたてて眠ってしまった。それを見て安心したのか、ローズとリザベルトも自室へと入っていく。



「存分に疲れを癒してくれ、次はいつ休めるかわからないからな」


ローズの言葉を受けて、緊張していたヴィクトルとシェイクも客室で大の字になって眠りへと落ちていった。


「広いっすね! 神殿よりもずっと!」

「うむ、いい繋がりができたのだ!」



ゼロもレイアと分かれ、客室へと入っていく。


「おやすみなさい、ゼロさん」

「ああ」


多くの言葉は交わさなかったが、そんなものは必要なかった。互いの目を見てすべてわかり合えるのだから。


レイアは嬉しそうに寝室で待つセシルの元へと駆けて行った。


フェンリーは食事を済ませるとそのまま居間で寝てしまい、ワルターは修行があるからと出ていってしまった。ゼロは結局一人で眠ることになってしまったが、久しぶりに安心してぐっすりと眠ることができた。





次の朝、ジャンヌの姿は屋敷のどこにも無かった。



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