episode 301 「火花散る」
ヴィクトルとシェイクはガイアを憎しみを込めた目で睨み付ける。
「まだいたんすか。とっとと消えろっす」
冷たい言葉を浴びせるシェイク。
「悔しいが、我々にお前を殺すことはできん。殺してやりたいのはやまやまであるがな」
ヴィクトルも言葉に憎しみと殺意を込める。
ガイアは何も答えず、ただただヴィクトルたちの言葉を受け止める。
「俺は死ぬわけにはいかない。だが、お前たちには俺を殺す権利がある。いつでも受けてたつ」
施設内にレイアの平手打ちが響き渡る。顔に涙を浮かべながらガイアを睨み付けるレイア。
「何の話ですか! なんであなたがそんなことを!」
顔を赤く腫らすガイア。レイアの質問を無視する。
「良かった、生きていたか。ゼロ、君も無事のようだな」
ゼロはガイアの胸ぐらをつかむ。
「いいか、俺はお前が何をしようと構わない。人を殺す理由があろうと無かろうと関係ない。だがな、どんな理由があろうとレイアの顔を曇らせるというならば、俺はお前を許さない」
ガイアを突き飛ばすゼロ。傷だらけのゼロの体でも、力の抜けきったガイアの体は簡単に吹き飛ばされる。
「ふ、そんなことでは我々が直接手を下さなくても殺されるだろうな」
その様子を鼻で笑うヴィクトル。
「殺される? どなたにですか?」
「レヴィすよ。メイザースでさえあの強さっす。兄貴のレヴィの力なんて想像も出来ないっすよ」
レイアの疑問にぶっきらぼうに答えるシェイク。
「シェイク、やめるのだ。これ以上レイアさんを巻き込んではいけないのだ。メイザースは我々で何とかするのだ。と言うかどうやって大神殿から抜け出してきたのだ?」
今さらになって疑問が浮かぶメイザース。自分たちが束になっても勝負にすらならなかったメイザース。ドエフを殺されても何もできなかったメイザース。ふとレイアの隣に目をやるヴィクトル。
「ま、まさかあなたが助け出したとでもいうのか?」
ヴィクトルの問いかけにゼロは首を横に振る。
「助けたかった。だが、俺の力では足りなかった。ジャンヌが現れなければ俺も殺されていただろう」
ジャンヌの名が出たことでガイアも反応する。
「そうか、中将が来ているか。俺の監視に来たのか、はたまた断罪しに来たのか。どちらにせよ今見つかるわけにはいかない」
足早に立ち去ろうとするガイアだったが、背後からする気配に気付き、諦めたような表情を見せる。
「帰りが遅いものだから一応様子を見に来てみれば、なるほどこういう事だったのね」
ガイアは声のする方へと斬りかかる。しかし、ガイアの剣は簡単に受け止められてしまう。それも素手で。
「なに? この弱々しい剣は。三剣士の名が泣くわよ?」
眼光を光らせるジャンヌ。
「だ、誰なのだ? あの美しい女性は。それにとても強そうなのだ」
「わからないっす。でも伝わってくるっす。あの人、相当強いっす」
いきなり現れたジャンヌの事をヒソヒソと噂するヴィクトルとシェイク。
「あの方はジャンヌさん。わたくしの古くからの友人です。そして帝国軍の中将、わたくしの知る限り最強の兵士です」
「中将……」
レイアの紹介で、言葉を失うヴィクトル。心から憎む帝国軍の猛者が二人、目の前にいる。一種の感動にも似た感情がヴィクトルの中に生まれる。と、同時にその期待もしてしまう。この女なら自分たちをメイザースの呪縛から解き放ってくれるのではないかと。
「余計なお世話です。ここは通してもらいます。俺はレヴィを必ず討ち取る。そのためにここまで来たのですから」
ガイアは剣をしまう。すると今度はジャンヌがガイアに対して鋭い蹴りを放つ。しかしガイアは微動だにしない。
「さすがね。当てないとわかったのかしら? それともただ単純に見えなかっただけとか」
ガイアは何も答えない。
「レヴィは私が倒してあげる。あなたはその首を持って帝国に帰りなさい」
その言葉にはガイアも黙っていられない。
「レヴィを倒す? いくらあなたでも自惚れだ」
「じゃああなたはどうするのよ。まさか自殺がお望み?」
二人の間で火花が散る。
「や、やめてください二人とも!」
止めに入ろうとするレイアをゼロが止める。
「レイア、やらせてやれ。ガイアのためにも」
「で、ですが」
そうこうしている間に二人は外に出てしまった。
「ガイア、私が鍛え直して上げる。そのうじうじした心をね!」
「中将、素手だからといって手加減はしませんよ」
ガイアはダインスレイヴを取り出す。
『五月闇!』
ジャンヌは闇に包まれた。




