episode 292 「死の通知」
「この気配……メイザースか。まさかあの小僧どもにやられたとでも言うのか?」
レヴィは街道を駆けながらメイザースの死を感知する。
「少しなめていたようだ、人間を。やはり念には念をいれておくべきだったな」
レヴィは帝都モルガントを目指していた。そこに埋葬されているイシュタルの剣、聖剣エクスカリバーを手にいれるために。
兄弟の中でも最大の回復力をもつメイザース。彼の死はレヴィ以外の兄弟にも衝撃を与えた。
何もない闇の空間。そこには一人の男がいた。アーノルト・レバー。組織最強と呼ばれた殺し屋だ。その殺し屋は今、闇にもてあそばれていた。
「へぇ、魔族を倒せる人間があの神もどきども以外にもいたんだな。それともメイザースが弱かっただけか?」
魔女の第四子、オルフェウスがアーノルトをあしらいながら感想を洩らす。
(魔族を倒しただと? この闇と同等の存在を?)
アーノルトに激震が走る。アーノルトはオルフェウスに手も足も出なかった。
(だが、これではっきりした。この魔族たちは無敵ではない。ならば……越えさせてもらう)
アーノルトはそう胸に誓い、オルフェウスの闇に挑み続けた。
「メイザース……そう、死んだのね。かわいそうな子」
メディアは宙に浮かびながらメイザースの死の情報を受け取っていた。
「それにしてもジャンヌだったかしら、あの娘どこかで感じた気がするわね」
むしゃむしゃと咀嚼音が聞こえる。たまにボリボリと何かを砕く音も聞こえる。音の発生源は小さな小さな少年だった。見た目は五歳そこらだろうか、だがその子供から放たれるオーラは魔族のそれだった。
「にいちゃんが死んだ。食べずにはいられないや」
むしゃむしゃボリボリじゅるじゅるゴクゴク
十一ある国の一つ、トリス。この国は国土の約九割が砂に覆われている。にも関わらず国は栄えており、圧倒的な資産を誇る。この国の王の名はヘルメス。砂漠の国をここまで発展させたのは彼の力だといっても過言ではない。そして魔女の第五子である彼のもとにも当然メイザース死亡は伝わる。
「メイザースが死んだか。是非会ってみたいものだ。そして余の配下に加えたい。そのジャンヌという女……余は必ず手にいれる。どんなものでもな」
見えざる家。何人たりとも近づけない土地。そこにすむ一人の女性。かつて組織を設立したメンバーの一人であり、その圧倒的な魔力によって半世紀以上トップに君臨し続けた人物。アーノルトの師にして最強の魔法使い。その正体は魔女の第一子、最も魔女に近い存在。
マリンは本を読みながら紅茶を飲んでいる。
「やはりあのジャンヌとやら、予言通りの強さだな」
何の感情も無い顔で呟くマリン。
「かわいいかわいい弟が殺されたというわけか。本来なら仇を討ってしかるべきなのだろうが、どうも気が乗らないな。そもそも私と彼らとでは存在が違いすぎる。確かに血のつながりはあるかもしれない。だが、それがどうしたというのだ? なぜ私が動かねばならない?」
マリンはお茶を飲み終えると、ゆっくりと目を閉じる。
「怠惰が罪? ならば私は喜んで罪を犯そう。咎めたくば咎めてみよ。私はいつでもここにいる」
独り言のように呟くマリン。
「そろそろか」
眠りにつこうとする彼女の背後に突如気配が現れる。マリンはあらかじめ予測していたかのように、全く驚くそぶりも見せない。
「ようこそ、レイア。私はマリン」
状況が全くつかめていないレイアを完全においてけぼりにし、一人で話し始めるマリン。
「メイザースの姉と言った方が分かりやすいか?」
その言葉を聞いたとたん、レイアの表情が強ばる。
「ふふ、嫌な目にあっただろう。だが仕方の無いことだ。我々は魔族なのだから」
マリンは指をならす。すると椅子が現れる。
「とにかく座りたまえ。立って話すのは疲れるだろう?」
レイアは警戒して座ろうとしない。
「魔族とは、いったい何の事ですか」
恐る恐る質問をするレイア。
「ようやく口を開いたか、だがつまらない質問だ」
もう一度指をならすマリン。するとレイアの体がひとりでに動きだし、椅子へとおさまる。
「きゃ!」
小さく悲鳴をあげるレイア。
「しばしまて。直に役者が揃うだろう」
「役……者?」
マリンの背後にできた空間からまたしても人影が現れる。
警戒するレイア。だが次第にはっきりとしてくるそのシルエットを見て声をあげる。
「ゼロさん!」
ゼロはレイアの正面に立ち、マリンに銃を向ける。
「貴様も魔の一族か」
マリンはいささかも表情を変えずに答える。
「いかにも」
それを確認し終えると、ゼロは引き金を引いた。




