episode 290 「殺人鬼」
ゼロから見たレイアの顔は完全に怯えていた。
「何を言っているんだ、レイア。俺だ、ゼロだ」
ゼロは一歩レイアに近づく。するとレイアは一歩後ずさる。
「レイア?」
フェンリーとワルターはゼロの肩を掴む。
「ゼロ、止めるんだ。レイアが怯えているじゃないか」
ワルターが少しきつい口調でゼロを戒める。
「何故レイアが俺を見て怯える!」
ワルターに怒鳴りかけるゼロ。その顔面を殴り付けるフェンリー。
「ッ! 何をする!」
フェンリーの胸ぐらを掴むゼロ。そんなゼロに氷で作った鏡を突きつけるフェンリー。
「見てみろ」
「……!」
うっすらとしか映っていないが、それでもはっきりとわかった。自分がいまどんな顔をしているか。
「これが……俺だというのか?」
殺人鬼。そう説明されれば誰もが納得するだろう。自分が嫌というほど嫌っていた人種が目の前にいる。
「本当に邪魔な男だね、お前は」
メイザースは再び立ち上がる。眉間の傷は完全に塞がっており、呑気にも撃たれた弾を手の上で転がしている。
「しかし僕の皮膚を貫くなんて大した腕じゃないか。それにいい度胸だ」
メイザースはレイアの腕をつかみながらニヤリと笑う。
「貴様……」
メイザースの生存に驚くワルターとフェンリーとは違い、更なる殺意を抱くゼロ。再び引き金に手をかけるが、メイザースの初動がそれを遥かに上回る。
「遅いぞ、人間!」
メイザースの突き出した手のひらから放たれた暴風によってゼロの体は木の葉のように吹き飛ばされる。
「ゼロさん!」
「おや、あの男の心配か?」
レイアの口からとっさに言葉が漏れる。
「ならばもっともっと痛めつけてやらなければな」
暴風に加えて炎と激流を両手から放つメイザース。
「塵になってしまえ! ハハハハハハハ!」
メイザースの高笑いが神殿に響き渡る。
「誰が」
「やらせるかよ!」
メイザースの炎をフェンリーの氷が、メイザースの激流をワルターの電撃がそれぞれ止める。
「う……」
ゼロは叩きつけられた壁際で二人の男の背中を見つめる。
「ゼロ、お前はそこで頭を冷やしてろ」
「このお子さまには俺たちが灸を添えておくよ」
二人の加護持ちを前にしてもメイザースの顔色はひとつも変わらない。
「たかだか二、三十年生きてきただけのゴミどもが。何様のつもりだ?」
指をならすメイザース。すると彼の後方にメディアの島で見たものと同じ穴が開く。そこへ騒ぎ立てるレイアを突き落とす。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に穴の向こうへと消えていくレイア。
「貴様……レイアをどこへ……」
軋む体をお越し、メイザースを問い詰めるゼロ。
「これは我々兄弟をつなぐ穴だ。レイアは今、兄弟誰かのところへと飛ばさせてもらったよ。この穴は十分足らずで閉じてしまう。早く追いかけた方がいい」
だが、誰もその場を動けない。迂闊に動けばどうなるか、火を見るよりも明らかだった。
「もっとも、それをやらせはしないけどね」
その言葉を置き去りにするかのように、メイザースが凄まじいスピードで突っ込んでくる。
「試しに撃ってみるといい。当たりはしない。もっとも、当たったところでどうということはないけどね」
メイザースの言葉通り、ゼロの弾は掠りもしない。弾の速度を越えるワルターの雷撃も軽く避けられてしまう。フェンリーの氷など、メイザースが移動しただけで砕け散ってしまう。
「さあさあさあさあ! 僕を殺したいんだろう?」
ゼロたちは避けるので精一杯だ。
「俺たちで時間を稼ぐ! お前はその隙に穴に向かえ!」
フェンリーがゼロの前に立って叫ぶ。
「フェンリー、お前……」
なにか言いたそうなゼロを突き飛ばすフェンリー。
「おらおらくそガキ! おしめはとれてんのかよ!」
メイザースを挑発する。
「安い挑発だな。だが腹が立った。まずはお前を殺してやる。が、」
穴の方へと走っていくゼロを見逃さないメイザース。
「お前が一番殺したいんだよ!!」
ゼロに突っ込むメイザース。
ドゴーン!!!!
突如神殿の入り口が爆発する。
「何だ!」
叫ぶメイザース目掛けて真空波が飛んでくる。
「ガハッ!」
成すすべなく吹き飛ばされるメイザース。
「あら、ガイアは来ていないのね。でも一応あなた敵みたいだからやっつけることにするわ」
扉の外には一人の女性が立っていた。帝国最強の女性が。




