episode 29 「共闘」
だんだんと近づいてくる海賊船。50人は乗っていそうだ。
「たっく、面倒そうだな。」
そういってフェンリーは手袋をはずして海の中に手を入れる。すると少しずつ海面が凍り始めた。歩いても割れないくらい海面が凍ると、ついてこいと言って海を歩き出すフェンリー。
戸惑いながらも続くゼロとケイト。露店の男は海岸で勝利を祈っている。
「ん、なんだありゃ。・・・アイツは。」
海を歩く男を見て、海賊側もフェンリーだと気づいたようだ。
船長らしき男がブリッジに出てきた。
「フェンネス!久しいな!で?なにをしてやがる!俺たちと戦う気か!?」
「ま、そういうわけだ。恨むなよ。」
「上等だ。野郎共!戦闘だ!フェンネスを血祭りにあげろ!」
船長はそういって奥へと消える。それと同時に次々と船員達が船から飛び降りてくる。
フェンリーは左の掌に水をすくい、右手の中指でそれを弾く。すると水は氷の弾となって海賊を襲う。
次々に倒れる海賊たち。弾を逃れた海賊も、ゼロの追撃によって倒れる。ケイトも投げ縄の要領で縄を投げ、海賊の足に絡ませて転ばせる。
倒れた海賊たちを縄で縛り、更に凍らせて動きを封じる。
船に乗り込む三人。
圧倒的な力をみせる三人の登場に後ずさりする海賊たち。
「怖じ気づくんじゃない。確かにフェンネスは脅威だが、あとはガキとチビだ!弱いやつから狙え!」
そういって船長はケイトには狙いを絞る。だがケイトも殺し屋の端くれ。相手が同業者ならまだしも、単なる荒くれ者共なら相手ではない。
華麗な縄捌きで海賊たちを近づけさせないケイト。
「チビじゃない。ケイト!」
「く、ならあのすかしたガキだ!やっちまえ!」
標的をゼロに変更する海賊。当然ゼロの敵ではない。海賊たちはなすすべなく倒れる。
「くそ!くそ!くそ!役立たずどもが!もういい!フェンネスだ!こいつさえ倒せ・・・」
言い切る前に凍らされる船長。
「で、何だって?」
その一言に残った海賊たちは散り散りに逃げ出した。
「ありがとう!本当にありがとう!」
露店の男は三人に頭を下げる。
「また飲みにいこうや。」
「気にするな。」
「あの海賊ムカつく。」
後片付けを軍に任せてフェンリーはベルシカに帰っていった。
「あのグラサン、ムカつくけど確かに強い。仲間でよかった。」
ケイトの言葉に不安を感じるゼロ。
もしフェンリーが敵として現れたら俺は勝てるのか?レイアを守りきることはできるのか?
帰り道もその事で頭がいっぱいだった。
「さっきの人、美人だったねぇ。」
「ホントホント。おっぱいも大きかったしねぇ。」
「僕、目が合っちゃったよ。そしたら金縛りにあったみたいに体が動かなくなったんだ。これって恋かな?」
サンバーンの入り口で人々が話していた。
「・・・まさか。」
ゼロはレイアと待ち合わせのホテルに駆ける。ケイトも急いで追いかける。
(落ち着け、大丈夫だ、きっと待っている。)
部屋の鍵は開いていた。
不安の波が押し寄せる。
中には誰もいなかった。
テーブルのの上には一枚の紙。
レイアちゃんは私がもらったわ。返してほしければ私の部屋に来てちょうだい。必ずよ?早くしないと、かわいいかわいいお姫様が野獣共の慰みものになっちゃうわよ?
ニコルより 愛を込めて
血が冷たくなるゼロ。
憎悪、悪意、殺意。負の感情がゼロを支配していく。
「ダメ!嫌!」
ケイトが後ろから抱きつく。機械のように冷たいゼロの体に温もりが宿る。
ああ、俺はまた、繰り返すところだった。
ケイトを抱き返すゼロ。自分の心臓の鼓動に押し殺されそうになるケイト。
「ありがとう。もう、大丈夫だ。」
「あ、うん。」
「助けにいこう。また力を貸してくれるか?」
「うん!」
二人は再び岩場を目指す。




