episode 289 「ゼロVSメイザース」
「痛いな」
メイザースは頬を押さえながら立ち上がる。口から血を吐き出し、ゼロを睨み付ける。
「誰の許可を得てレイアに触れている? それは僕のだ」
メイザースの両手からエネルギー弾が現れる。そしてそれを殺意と共に放つ。
ゼロはレイアを抱えたまま、軽快な動きでそれを避ける。
(レイア、本当にレイアだ。生きている……良かった、本当に良かった)
ゼロの目にメイザースは映っていない。レイアの身だけを案じ、神殿からの脱出を図ろうとする。
「僕を無視するなぁ!!」
メイザースはゼロを執念深く追いかけ回す。
「くそっ! なんだこのガキは!」
フェンリーはメイザースに攻撃を加えるが、全く相手にされていない。
「効いてはいるようだけれど、回復力がすごすぎて意味が無いようだね」
ワルターがいくら切りつけても、メイザースは目もくれない。その瞳にはレイアしか映っていないようだ。
「返せ返せ返せ返せ!」
レイアを抱えて逃げるゼロを必死で追いかけるメイザース。
「しつこいぞ!」
ゼロはメイザースの足を銃で撃ち抜くが、メイザースに止まる気配は全く無い。
バタ!
「ゼロ!」
フェンリーとワルターが駆け寄ってくる。
レイアを抱えていたゼロが急に倒れる。レイアも床に投げ出され、メイザースの方へと転がっていく。
「な……にをした!」
体が動かない。かろうじて目だけでメイザースに敵意を向ける。
メイザースは必死に笑いをこらえている。
「ぷっ、ようやく症状が出始めたか! この女はね、加護が暴走しているんだ。ただの人間に扱えるような代物じゃ無いんだよ」
そう言ってメイザースはレイアの体を持ち上げる。
「今の僕は気分がとてもいい。何故かメディアの結界も消えたしね。だがら今なら見逃してあげるよ。ま、世界を滅ぼすまでの数日の間だけだけどね」
メイザースはレイアの髪を撫でまわす。
「世界を滅ぼす? 何を言っているんだい? 君はメディアやレヴィ元帥とどんな関係が?」
情報を聞き出そうとするワルター。しかしゼロはそんなに冷静ではいられない。
「その手を離せ……殺すぞ」
ゼロの殺気がメイザースを貫く。
「オー怖い怖い。お前本当に人間か? まるでお預けをくらった犬っころみたいだ」
メイザースはのんきにもゼロを挑発する。そしてゼロは挑発を受け流せるほど余裕はない。
無言で引き金を引くゼロ。弾はメイザースの肩に命中する。
「うぎゃ!」
悲鳴をあげるメイザース。だがレイアは離さない。それを見て更なる追撃を加えようとするゼロ。その銃口はメイザースの眉間に向いている。
「やめろ! お前、自分が何をしているのかわかってんのか! 相手は子供だぞ!」
フェンリーがゼロの前に立ちはだかる。
「どけ」
ゼロは冷たい視線でフェンリーを見る。
「どかねぇ!」
フェンリーは熱い視線でゼロを見る。
「そいつがただの子供に見えるのか?」
ゼロはフェンリーに対しても殺意を向ける。
「ただの子供でもそうじゃなくても子供は子供だ! お前の殺し屋としての矜持はどこ行っちまったんだよ!」
フェンリーが必死で説得しようとするが、ゼロは聞く耳を持たない。そのまま発砲し、弾はフェンリーの耳元をすり抜けてメイザースの眉間に命中する。
「てめぇ……」
フェンリーは唇を噛み締める。さすがのメイザースも眉間を撃ち抜かれては、レイアを手放すしかなかった。メイザースが倒れた衝撃で派手に転がるレイア。
「うう……」
うっすらと目が開く。レイアが最初に見たのは眉間から血を流して倒れているメイザースだった。
「きゃあ!」
悲鳴をあげるレイア。身の危険を感じ、振り返ると、そこには見知った顔があった。
「フェンリーさん! それにワルターさん!」
フェンリーとワルターを発見するレイア。どうやら奥にもう一人居るようだ。
「レイア……」
「え?」
聞こえてきたのは紛れもなくゼロの声だった。だがその目、その姿はレイアのよく知っているゼロのものではなかった。
「ゼロ……さんですか? 本当に?」
頭ではわかっている。だが、確認せずにはいられない。そう、その姿はまるで殺人鬼だった。




