episode 286 「サルベージ」
フェンリーとレヴィは空中に浮かぶ島の端に来ていた。フェンリーは下を指差す。
「ゼロを沈めたのはこの真下だ。だけどどうやって行くつもりだ? ここは結構深いぜ?」
レヴィをただの人間だと認識しているフェンリーは、心配して声をかける。
「問題ない」
レヴィは腰にぶら下げている剣には手をかける。そしてフェンリーに対して思いがけないことを口にする。
「よし、俺を蹴り落とせ」
「はぁ!?」
レヴィは至って真面目なのだが、フェンリーは驚いて変な声が出る。
「冗談じゃねえぜ! 俺にあんたを殺せって!? ここ何メートルあると思ってんだ?」
ここから水面まで千メートルはある。落ちれば只では済まないだろう。
「メディアを呼んでくるぜ。彼女の力なら地上まで下ろしてもらえる」
レヴィの眉がピクリと動く。
「いいからやれ。俺は帝国軍元帥だ。イシュタルの事は知っているのだろう?」
イシュタルの名を聞いてフェンリーは立ち止まる。
「知ってるも何も……」
イシュタルに殺されたときの記憶が甦る。
「なら俺の言うことはわかるな? それともイシュタルがここから落ちて死ぬと思うのか?」
レヴィは怒りを溜めていく。
「……知らねぇぞ」
「やれ」
フェンリーはレヴィの背中を思い切り蹴り飛ばす。レヴィは海面へとまっ逆さまに落ちていく。そして貯めた怒りを剣先へと移動させていく。
(妹を呼ぶだと? ふざけるな。この俺を人間が足蹴にするだと? ふざけるな!)
レヴィの剣が黒く変色していく。
「割れろ」
レヴィは海面に向かって剣を振り下ろす。すると海は真っ二つに割れ、海底に沈むゼロは空中へと投げ出された。それをレヴィは軽々とキャッチし、水がなくなった海底へと着地する。そしてそのままジャンプし、遥か空中に浮かぶ島へと戻ってきた。
「……」
呆気にとられるフェンリー。
(確かにこいつはあのイシュタルと同等……いや、それ以上か?)
「何を呆けている。戻るぞ」
凍ったゼロを肩に担いだままレヴィは小屋へと戻っていく。
「あら、その子連れてきちゃったの?」
メディアはあまりいい気分ではなかった。自らの獲物をとられたかのようだった。
「メイザースじゃ無いけれど嫉妬しちゃうわね」
そんなメディアを鼻で笑うレヴィ。溜め込んだ怒りをすべて吐き出したのか、その顔は穏やかだ。
「メディア、それは傲慢というものだ。お前には駒が二つもあるじゃないか」
二つの目で二人を見るレヴィ。
「だけどその男は……」
それでもなお、反論するメディアはレヴィの目を見て言葉を詰まらせる。
「くどいぞ、メディア。お前ごときがこの俺に反論するな」
その一言で完全にメディアは萎縮してしまう。が、メディアの完全なる虜となっているワルターとフェンリーはそれを黙って見過ごすことはできない。
「ちょっといいですか元帥」
ワルターが剣を抜く。
「おいおっさん、いまなんつった?」
フェンリーも戦闘体勢に入る。
二人はポカンとした表情のレヴィの前に立ちはだかる。
「まさかお前たち、俺に敵意を向けているのか?」
本気で殺意を向ける二人に対して両手を広げるレヴィ。メディアは止めることもせず、ただその様子を傍観している。
(面白いじゃない、怒りが溜まっていないお兄様に対してどれだけやれるか見ものだわ)
メディアはより濃く二人に念じる。邪魔者を排除せよと。
二人はメディアの命令通りレヴィに飛びかかる。レヴィは剣を放り投げ、二人を迎え入れる。
「来い! カスども!!」




