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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
285/621

episode 285 「レヴィとメディア」

ゼロの体は深い深い海の底に沈んでいった。そこはとても暗く、とても静かで、とても寂しかった。


(ワル、ター……フェン、リー……)


ゼロの意識は消えていく。闇の中へと消えていく。





レイアは目を覚ました。体の節々が痛む。



(血の……臭い?)


辺りからはすさまじいほどの悪臭が漂ってくる。体が起こせないレイアは横目で部屋を見渡す。



「おや? 目覚めたか」



臭いのもとはそこにいた男だった。身体中におびただしい量の血を浴びている。一人や二人を殺害したくらいではこうはならないだろう。



「どなたですか?」



レイアはその男に話しかける。


「ハ! この状況で質問してくるとはな。ずいぶんと肝が座っているな。それともどこか外れているのか……まぁいい」


男は立ち上がり、レイアに寄ってくる。そしてメディアの施したバリアを簡単に破壊し、レイアの髪に触れる。


「俺の名はレヴィ。愚弟メイザースの兄と言った方が分かりやすいか?」


レヴィの血塗られた手からレイアの髪へと血が移動する。



(動けない……)



レイアはまばたきすらすることができなかった。それは使いなれていない加護の反動というだけでは無いだろう。自分とは別次元の存在との接触、蛇に睨まれた蛙の気持ちをレイアは初めて理解した。



「そう怯えるな。危害を加えたりはしない。お前は我々の仲間なのだから」


仲間、レヴィは確かにそう言った。否定しようにも口が動かない。


「せいぜい役に立ってくれよ? 人間の手を借りるなど嘆かわしい事だが、数ではこちらの方が不利なのだから仕方がない」


レヴィはレイアから手を離す。


「俺はこれから妹に会ってくる。どうやら妹も駒を用意したようだからな」


そう言ってレヴィは部屋を出ていく。



「ぷはぁ!」



レイアはたまっていた息をすべて吐き出す。


(メイザースさんのお兄さん? いったい何の話を……)


レイアはようやく動くようになった体を起こし、神殿の中を探索していく。



(ヴィクトルさんたちは無事でしょうか……)


記憶が曖昧だが、ここへはヴィクトル、シェイク、ドエフの三人と一緒に来たはずだった。


(それにしてもこの神殿、まったく人の気配がしませんね)


メイザース大神殿の中は静まり返っていた。人の気配はしないが、血の臭いだけは充満している。


(この感じ……嫌ですね)


レイアはあの時の事を思い出す。肉の焼ける臭いはしないものの、この背筋が凍るような感じはあの時と同じだ。組織の殺し屋、爆殺のバロードによって屋敷の使用人たちが虐殺されたあの時と。


(ゼロさん……無事でいてください)


そしてあの時助けてくれた青年の事も思い出していた。





「あれ? レヴィ元帥じゃないですか!」


レヴィがメディアのもとを訪れると、いきなりワルターが声を上げた。


「ん? お前は……たしかフェンサーだったか。イシュタルからよく話は聞いていたよ、つきまとう小僧がいるってな」


レヴィは少し悲しそうな顔でワルターに言葉を返す。



「ハハ! 結局一度も元帥殿には勝てなかったなぁ。でもいつか土をつけてやりますよ!」


イシュタルの死を知らないワルターは無邪気に笑う。レヴィはその笑顔に少し苛立ちながらワルターを睨み付ける。



「俺が言うのもなんだが、お前は帝国を守護するべき立場の人間だろう? 何故俺たちについてくる?」


レヴィの質問に、ワルターはきょとんとしている。


「何の話ですか? 俺たち?」

「貴様……」


ワルターの態度にレヴィはますます腹をたてる。



「無駄よ、お兄様」



奥からメディアが現れる。手には紅茶のカップを握っている。


「メディア、無駄とはどういう意味だ?」


レヴィはあふれでそうな怒りを押さえ込み、メディアに尋ねる。


「その男には何も説明してないの。その男は私のただの駒。私が命令すれば何でも言うことを聞くわ。現にさっきもゼロとか言う友達を見殺しにしたんですもの」


得意気にメディアが答える。レヴィはゼロの名前が出たとたん、眉をピくつかせる。



「ゼロ? どこかで聞いた名だな」



レヴィは確かにその名に聞き覚えがあった。


(もしや、イシュタルを一度倒したという……)



「メディア、そのゼロは殺したのか?」

「さあ、どうかしら? 生きてはいないと思うけれど」



メディアはフェンリーを指差す。


「お前は?」


レヴィが尋ねると、フェンリーは口に加えていたタバコを宙に投げ、息を吹き掛ける。するとタバコは凍って地面へと落ちた。


「俺はフェンリー。ゼロは俺が凍らせ、海に沈めた」


それを聞いてレヴィはニヤリと笑う。


「そうか、なら生きている可能性はあるということだな。よしフェンリー、案内しろ」


レヴィの言葉にフェンリーは答えずメディアの方を向く。メディアが無言で頷いたのを確認すると、フェンリーはレヴィを連れ、小屋を出ていった。


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