episode 282 「メディアの魔力」
ワルターは本気でフェンリーに剣を向けてきた。
「おい、シャレになんねぇぞ!」
フェンリーは氷の盾を作り出し、ワルターの攻撃を防ぐ。
「仕方がないじゃないか。メディアが君のこと嫌いだと言うんだ」
ワルターは至って真面目な表情で攻撃を続ける。その様子をリラックスしながら眺めるメディア。
「いいわ。ワルター、頑張ってちょうだい」
「ああ、期待していておくれ!」
メディアの声援を受けてワルターの剣は更に鋭さを増す。
「調子に乗るんじゃねぇ!」
フェンリーはワルターの剣を氷で絡めとり、そのまま飲み込んでいく。
「あら、面白い力ね。私も手を貸しましょうか?」
フェンリーの加護を見て、メディアがワルターに尋ねる。
「いいや、必要ないさ。はぁぁぁぁ!」
ワルターが力を込めると剣から雷撃が放たれ、フェンリーの氷を粉々に砕く。
「な!」
驚愕するフェンリー。
「驚いたかい? この剣には十闘神スサノオの剣の破片が入っているんだ。雷電丸には遠く及ばないけれど、氷を砕くくらいは、わけないさ」
スサノオの名を聞いてピクリと顔の筋肉を動かすメディア。
(十闘神スサノオ……間違いなく母の敵ね。まさかこんなところでその名を聞くなんてね。良かったわ、こっちの坊やを捕まえておいて)
メディアの顔はすぐに笑顔へと変わる。
「ワルター! お前、操られてんだよ! 気をしっかり保て! 俺のことがわかんねぇのかよ!」
必死に叫ぶフェンリー。しかしワルターは攻撃をやめない。
「もちろんわかるさ。でもね、俺にとってはメディアが一番なんだ。確かに操られているのかもしれない。俺はメディアを愛しているんだ」
「あらやだ」
ワルターの言葉にわざとらしく顔を隠すメディア。フェンリーは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そうかよ! なら目ぇ冷ましてやるぜ!」
フェンリーは力を解放する。地面に手をつき、地中の水分を凍らせ、地上に氷の槍を作っていく。
「どこを狙っているんだい?」
易々と避けるワルター。
「ああ、狙いはお前じゃねぇからな!」
「しまっ!」
無数の氷の槍がメディアに向かって突き進んでいく。ワルターが急いでメディアの方へと向かっていくが、氷のスピードに追い付けない。
「メディアぁぁぁぁぁ!!」
ワルターの悲痛な叫びが響き渡る。四方八方から迫り来る氷の槍は、到底回避することは出来ない。それはメディアに突き刺さるかと思われた。
だが、突き刺さったのはメディアではなく、ワルターの方だった。
「がっあぁぁぁぁ!」
ワルターは血と悲鳴を口から吐き出す。
「バカな……なんでだよ」
ワルターの体はメディアから遠く離れたところにあった。確かにワルターはメディアを助けようとそちらに向かってはいたが、到底追い付ける距離ではなかった。だが、実際に攻撃を受けたのはワルターだ。
ワルターの体は瞬間移動した。いや、正確にはさせられた。氷の槍の先へと。
「はははふふふ! どうかしら? お仲間を貫いた感想は? 悲しい? くるしい? むなしい?」
無傷のメディアは二人を嘲り嗤う。
「でも安心して。私、残虐な性格ではないのよ」
そう言ってメディアはワルターに口づけをする。するとワルターの血はみるみるうちに止まり、傷口も塞がってく。
「どうかしら?」
ワルターは意識を失っているようだが、その顔には血の気が戻っていく。
「てめえ……」
フェンリーはメディアを睨み付け、再び地面に手を当てる。
「あら、良いのかしら?」
メディアはワルターの体に手をのせる。
「何回でも繰り返しましょうか?」
「チィ!」
フェンリーは舌打ちをする。
「逃げるのなら今のうちよ。私はこの坊やに死んでほしくは無いの。あなたもそうでしょう? 人を生き返らせるのって結構骨がおれるのよ。あなたを殺すのは簡単だけれど、坊やに影響が出たら困るもの」
そう言いつつも、メディアはフェンリーに殺意を浴びせる。その殺意はフェンリーが今まで浴びたどの殺意よりも強大で、逃げ出すのには充分なものだった。
気がついたときには、フェンリーは海の中へと姿を消していた。




