episode 28 「海賊」
「貴様、何者だ。」
「そんなことはどうでもいい。お前に頼みたいことがある。」
「ふざけるな。」
立ち去ろうとするゼロの肩を掴む男。
「俺を殺してくれ。」
レストランで食事をしながら先ほどの奇妙な男の事を考えるゼロ。言っていることはふざけているが、男自身は決してふざけているようには見えなかった。
「死にたければ勝手に死ね。」
「それでは意味がないんだ。なるべく惨たらしく殺してくれ。」
「他を当たれ。」
そういって無理やりその場を後にしたものの、気になって食事が喉を通らない。
「どうしたのですか?」
レイアが心配そうに顔を除きこむ。
「ほっとけばいい。どうせあの風船ババアの事を考えてる。」
ケイトはまだ怒っている。
ゼロは用を思い出した。と言って席をたつ。
「待ってたよ。」
「話だけ聞く。」
ゼロは露店の男に話しかける。
男は語り出した。
自分が元海賊だということ。
仲間の一人が今は組織にいること。
海賊達がこの町を狙おうとしていること。
この町には大切な人たちが住んでいること。
「サンバーンには警備隊がいない。海賊が来るといっても皆平和ボケして危機感をいだかない。当然軍も派遣されない。なら事件を起こして危機感を上げるしかない。自殺じゃダメなんだ。殺人気が町に現れたと皆に思わせなきゃダメなんだ。」
男は真剣に訴えかける。
「仮に貴様の話が全て本当だとしてもなぜ貴様がそこまでする。その大切な人と共に逃げればいいだろう。」
「分からないか?俺はこの町の人達皆が大切なんだ。海賊を抜けて流れ着いたこの俺を、皆何も聞かずに受け入れてくれた。ここが俺の居場所なんだ。」
男は大きく手を広げて言う。
ゼロはその男のまっすぐな目を誰かに重ねる。
「わかった。だが殺しはしない。海賊が現れる場所、日時を正確に教えろ。」
「お前、まさか・・・」
「迎え撃つ。」
ゼロは男から情報を聞き出し、レストランへと戻る。レイアとケイトはペチャクチャ喋りながら優雅にランチを楽しんでいた。
ゼロに気づいたのかプイっとそっぽを向くケイト。ゼロはケイトの前に立ち、深々と頭を下げる。
「頼む。俺と一緒に戦ってくれ。この町にもうじき海賊が攻め込んでくる。それをどうにかくいとめたい。だが、俺一人では難しい。お前の力を貸してくれ。」
ゼロのそんな姿を初めて見たケイトは驚きを隠せない。そしてあれほど子供扱いしていた自分を戦力として扱い、頼ってくれたことが素直に嬉しかった。
首をたてに降るケイト。断る理由は思い付かなかった。
「わたくしは待っています。」
レイアはもう戦力にならないことを嘆こうとはしなかった。無理に自分がついていけば必ず足手まといになることもわかっていた。
「済まない。頼む。」
頭ではわかっているものの、去っていくゼロとケイトの後ろ姿を見て、やっぱり寂しいなと思うレイアだった。
二人は露店の男に連れられて海岸線まで来ていた。どうやらここが海賊の出現ポイントらしい。
しばらくして一隻の船がこちらに向かってやってきた。ゼロとケイトは臨戦態勢にはいる。が、様子がおかしい。明らかに船の大きさが海賊船のそれとは違った。
船に乗っていたのは見知った男だった。
「よぉ、随分と縁があるな。」
「うげ。」
その男の登場にケイトの顔が曇る。
「来てくれて助かる。」
「構わねぇさ。旧友の頼みならな。」
男は露店の男の言う組織の知り合いだった。二人はガッチリと手を握り交わす。
「まさかお前が海賊だったとはな。フェンリー。」
「昔の話さ。」
フェンリーはタバコに火をつけて答える。
「私、帰っていい?」
「そう言うなや。それにもう遅いみたいだぜ?」
帰ろうとするケイトが水平線の彼方に見たのは巨大な船だった。今度こそ海賊がやって来たのだ。
「安心しな、ちゃんと俺が守ってやるよ。おちびちゃん。」
ケイトの頭に手をのせるフェンリー。更に顔が曇るケイト。
「じゃれ合うのはここまでだ。来るぞ!」
ゼロは銃を構える。




