episode 277 「憤怒と嫉妬」
第二子であるレヴィと第六子であるメイザース。二千年生きている彼らにとって年功序列などたいした意味を持たないが、それでもメイザースにとってレヴィは雲の上の存在だった。
生まれたときから生き物としてのレベルが違う魔の血族。その中でも頭ひとつ抜けた存在が長女マリンだ。魔女が力の半分を分け与えて産み出した存在であるマリンは、他の兄弟からも恐れられている。
その次に産み出されたのがレヴィだ。マリンほどではないもののその力は圧倒的で、潜伏した帝国軍ではあっという間に元帥の地位についてしまった。
六番目に産み出されたメイザースも生物としては他を超越している。が、それでもレヴィとの実力差は埋めようのないほど大きかった。
「僕の……場所だ」
メイザースはレヴィの尻の下で呟く。
「ふう、なかなかやるじゃないか。兵士どもとは比べ物にならんな。さすがは我らの血族だ」
レヴィの怒りはすっかり収まったのか、姿形がもとに戻っている。
「それにしてもお前は良いサンドバッグだな。恐るべき回復能力だ。23回は殺した筈だが」
相当激しい戦いがあったのか神殿内は荒れに荒れており、メイザースの血が辺り一面に飛び散っていた。それに対してレヴィは無傷とまではいかないものの、ほとんどダメージを受けてはいなかった。
「どけ!」
またしても回復したメイザースが上に腰かけているレヴィをはねのける。そして性懲りもなく、再びレヴィに向かって牙を向く。
「もういい加減止めにしないか、これ以上の戯れは母に被害がいきかねない」
魔女の死体へのダメージを懸念するレヴィ。
「ハ、母さん!」
魔女の方を向き、レヴィに背を向けるメイザース。しかしその瞳は魔女の姿をとらえることなく、宙を舞う。
「ガッ!」
メイザースの首は血を噴射しながら飛んでいく。
「仕方がない、貴様の執念と24回目の死に免じてこの場所は譲ってやる。これ以上母に血を見せたくはないからな」
そう言ってレヴィは部屋を出ていく。メイザースは途切れ行く意識のなかで喜びを感じていた。
(やった! ここは僕の場所だ! 僕が勝ち取ったんだ!)
「さて」
レヴィは椅子に腰かける。そしてガイアとムゲンの事を思い出していた。
(俺の正体を知ってしまったやつらはどう処分すべきか。殺すのは容易いが、やつらは決して有象無象ではない。神もどきを葬る為の駒にするのも悪くはない……)
それと同時にイシュタルの事も思っていた。
(バカな奴だ。お前一人で戦況は大きく変わったというのに。やはり所詮は人間か……)
レヴィにとってイシュタルは唯一友と呼べる存在だった。対等に話せるただ一人の存在だった。そんなイシュタルの死は少なからずもレヴィの心に悲しみをもたらした。
(人の死を憂うなど、まるで人間ではないか)
レヴィの顔が変化していく。
「ハハハハハ! 実に腹立たしい! 魔族であるこの俺が!」
悲しんでいるのか、怒っているのか、どちらにせよレヴィの顔は大きく歪んでいた。
ガイアはテノンへと戻ってきた。上陸し、かつてレイアと時間を共にしたテノン神殿へと足を運ぶ。
(待っていろレイア。必ず救い出す)
ヴィクトルたちとの出会い、レヴィとの遭遇、様々な不安要素はあるが、いまのガイアにとっては些細な事だった。
必ず守ると決めた少女を守りぬく。そして彼女の願いを叶える。
軍人として人生を全うできなかったガイアだったが、それだけはやり遂げると心に誓っていた。




