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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
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episode 273 「最後の言葉」

シオンの体力は完全とはいかないまでもある程度回復していた。だが、マークの怪我はとてももと通りとは言えない。正直二人でかかっても目の前に立ちはだかるリザベルトを退けるのは至難のわざだろう。


「どいてくれ中尉! 俺はいかなくちゃならないんだ!兄上は俺が支えなくては!」


マークは血が滴る腹を押さえながら、リザベルトに訴えかける。


「私も准将の事は心配です。ですが、准将が罪を犯したのは事実、その責任は准将自身が取るべきだと考えます」


きっぱりとリザベルトは答える。それに対してマークは反論することができない。



「リズちゃん……戦うしかないの?」


シオンはとても辛い表情でリザベルトに最後の確認をおこなう。



「問答は、無用です」


リザベルトが仕掛ける。真剣では無いものの、模擬剣でも今のマークに致命傷を与えるのには充分だ。


マークは、反応はできても体を動かすことができない。


「危ない!」


シオンが間に割って入り、リザベルトの剣をガードする。本来ならば腕を氷で覆い、ダメージを減らすはずだったのだが、体調が万全でないためか上手く氷が出ない。結果としてダメージをほぼそのまま腕に受けてしまった。


「うぅ!」


シオンの悲鳴で思わず剣を引いてしまうリザベルト。その一瞬の隙にマークは扉の向こうへと進んでいく。


「マー君行って!」

「済まない!」


マークは診療所を抜け、外へと走っていく。


「くそっ!」


追いかけようとするリザベルトの腕を掴むシオン。


「行かせてあげて」


リザベルトは力を抜く。もう追いかける気は無いようだ。案外すんなり意見が聞き入れられたことに驚くシオン。


「できればここで止めたかったのだが……中佐のためにも」


神妙な表情のリザベルト。


「どういうこと?」





マークは血をポタポタと床に垂らしながら廊下を走る。


(シオン、済まない。この借りは必ず返す)


シオンを気遣いながら走るマーク。だがすぐにそんなことを考えられなくなる。目線の先にある人物を発見したからだ。



「通さない理由を話した方がいいか?」


「結構です。通らせてもらいますから」



そこには鎧に身を包んだ黒髪の女兵士が立っていた。ローズ・ヴァルキリア、リザベルトの姉であるローズもまたレヴィ捜索のために呼び戻されたのだ。


「そうか、なら本気で相手をさせてもらおう」


ローズは剣を抜く。模擬剣ではない、正真正銘真剣だ。


「……わかりました。お手合わせ願います」


マークも剣を抜く。



ローズとマークは今まで何度も手合わせをしてきた。そしてマークは一度たりともローズに土を付けさせたことが無かった。ましてやこの状況、マークに勝ち目は無かった。


終始ローズに圧倒されるマーク。攻撃はおろか、まともに剣を降ることすらできない。ただ動くだけでも腹から大量の血が流れ出る。


「死にたいのか?」

「死んでも……譲れないことだってあります」


最早気力だけでローズに立ち向かうマークの姿は哀れみすら感じさせた。


「いい加減に……」


ローズは苛立っていた。この聞き分けの無い小僧を殺さない程度に痛め付けるのは非常に難儀だった。



「もういいんじゃない? 一応こっちも時間が無いのよ」



扉の向こう、つまり施設の外から声が聞こえてくる。聞き馴染みのある優しく恐ろしい声だ。マークは運命を悟った。だがそれでも無駄な抵抗をやめようとはしなかった。


「そ。それじゃあ眠ってもらおうかしら」


それがマークの聞いた最後の言葉だった。






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