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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
265/621

episode 265 「闇に堕ちた剣士」

イシュタルは死んだ。半世紀以上に渡って帝国を支えていた男の死は、人々の心を粉々に砕くには充分な一撃を与えた。


「元帥殿……俺のせいで」


ガイアは罪の意識に苛まれていた。背中で冷たくなっていく老人に、何もすることが出来なかった自分の無力さを悔やんだ。


レヴィはその後姿を消した。騒ぎが起きたイシュタルの部屋から帝国の外まで死体で道ができており、レヴィがやったことは明らかだった。レヴィは帝国によって指名手配され、討伐隊も編成された。


「仕方がない。悔やんだとしても」


ムゲンがガイアの肩に触れる。ガイアはそれを払いのける。


「ふざけるな! 元はといえば貴様が元帥殿に刃を向けたのが始まりだ! それに魔女の胆だと!? なぜそのようなものを持っている!」


ガイアはムゲンを怒鳴り付けた。怒りが膨れ上がってくる。悲しみと苦しみを紛らわすにはそうするしかなかった。


「我々のつかんだ情報は元帥が魔の者ということだけ。誰ということまでは解らなかった。だから確かめる必要があったんだ」


ムゲンの隣にいたセルバが弁解する。


「は? ではつまり元帥殿は間違いで巻き込まれたというのか? たったそれだけのことで?」


ガイアは膝を落とす。


「言いはしない。許してほしいなど」


ムゲンは刀を捨てる。そして上半身の着物をはだけさせ、その場に正座する。


「くれてやる。この戦いが終わったらこの命など」


ガイアはその刀を拾う。


「今……殺してやる」


ガイアは刀をムゲンに振り下ろす。それをセルバが受け止める。セルバはガイアの一撃を受けきれず、しりもちをついてしまう。


「……っ! 本気で殺す気か! ここで殺し合ってなんの意味がある! 見誤るな、敵はレヴィだ!」


ガイアは刃こぼれしてしまったムゲンの刀を捨て、魔剣に手を伸ばす。


「レヴィ? 勝てるとでも? お前も帝国も何もわかっちゃいない! あれは化物だ! それこそ挑んで何の意味がある! そんなことはどうでもいい、もう元帥殿は居ないのだから!」


ガイアは鞘から魔剣を引き抜く。七聖剣の一つ、闇の加護を受けし剣、ダインスレイヴを。


「謝罪? ああ、そんなものはいらない。それは俺にではなく元帥殿にするのが筋だ。だがら連れていってやる。あの世で謝罪しろ!」


辺りが闇に包まれていく。



『五月闇!!』



セルバはすぐさま力を使う。ムゲンもろとも闇にとらわれてしまう。


「やるというんだな。本気で」


闇の中からムゲンの声が聞こえる。


「姿は見えずとも気配が残っているぞ。葬ってやる」


ガイアは天に剣を突き刺す。


『天泣!』


闇すべてを覆い尽くすように細かい雨が降ってくる。ただの雨ではない。それは血のように赤く、そして生臭い。


「避けられるものなら避けてみろ」


億の雨がムゲンたちを襲う。折れた刀で弾こうとするが、そのすべてを弾くことなど到底できない。


「これはダインスレイヴが吸ってきた血だ。そして今では俺の一部。そこだな」


ガイアは二人の位置を感知する。


「死ね」


『凍雨!』


気配のする方へ剣を突き刺すガイア。剣先から赤い氷の固まりが出現し、ムゲンたちの方へと飛んでいく。それは鋭く形を変えてどんどん突き進んでいく。


ぐさり


嫌な音が闇に響く。


二人の気配が鮮明に感じられる。闇を解くガイア。そこには腹に風穴を開けたセルバが倒れていた。


「ごはっ! 無事か、ムゲン」

「セルバ……」


セルバはムゲンに怪我が無いことがわかると嬉しそうに目を閉じる。


「お前たちの敵であるレヴィも必ず殺す。安心して逝け」


ガイアは止めを刺すべく剣を構える。


「ムゲン! 逃げろ! ここでお前は死んではいけない!」


セルバは最後の力を振り絞り、ムゲンに力を使う。ムゲンの気配は瞬く間に消えてなくなり、まったく感知することができなくなった。



「冗談ではない。逃げろだと?」



ガイアの体が切り刻まれる。折れた刀ではあるものの、見えない敵からの攻撃は驚異そのものだ。


だがガイアはいたって冷静に剣を構え、セルバに突き刺す。


「ガッ!」


セルバの小さな命の灯火が完全に消え去る。その瞬間、ムゲンの姿が現れる。


「逝ったか……」


ムゲンは折れた刀をガイアに向ける。


「覚悟はいいな?」



ガイアも剣を向け返す。


「無論だ」



二人の刃が混じり合う。







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