episode 263 「憤怒のレヴィ」
レヴィはまったくセルバに気づいていない。セルバの手にした剣がレヴィの服に触れ、肉へと到達する。が、その瞬間、レヴィは人間離れした速度でそれを回避する。
「なっ!!!!」
セルバは驚きを隠せなかった。今までこの力を使って最初の一撃を止められたことなど一度もなかったからだ。
「……なんだ?」
レヴィ自身も背中に残った感触に違和感を覚える。
(確かに今攻撃を受けていた。だがその事事態、段々と記憶から消え去ろうとしている……)
奇妙な感覚に襲われるレヴィ。
戦闘体制に入るレヴィ。それを感じ取った他の兵士たちは一斉にその場を離れる。
剣を抜くレヴィ。
「何者だか知らないが、俺を狙うというなら命の保証はできんぞ」
レヴィの突き刺すような殺気がセルバを襲う。汗が噴き出すセルバ。力が解けないように集中する。
「外が騒がしいな。この気配はレヴィか」
イシュタルがレヴィの気配を感じとる。
「何かあったのかもしれん。急がせてもらおう。のう、ムゲン」
ムゲンは床に倒れていた。致命傷は受けていないものの、体力が底を尽きようとしていた。
「レヴィ……」
だがその名を聞いたとたん、ムゲンの顔付きと気配が変わる。
「なんだ? レヴィに用か? 残念だが貴様はこの場で断罪する」
エクスカリバーをムゲンに近づけるイシュタル。
ムゲンは何かを取り出す。そしてそれを口へと入れた。
「薬か? 今さらそんなものを……」
「聖遺物、魔女の胆だ。薬ではない」
次の瞬間、ムゲンの気配が膨れ上がる。そしてその気配は外のレヴィに衝撃を与えた。
「なっ! これは、母上!?」
レヴィはセルバやイシュタルのことなどお構いなしに扉を開ける。だがそこに居たのは彼の母ではなく、片目のつぶれた一人の剣士だった。
「………………………………………………………………は?」
レヴィはポカンと口を開ける。そして徐々にその顔は怒りに震えていく。その表情を見て焦りを見せるイシュタル。セルバもその圧力に圧倒され、完全に力が解けてしまう。
「いかんな。これはいかん。レオグール准将!」
ガイアの名を叫ぶイシュタル。ガイアは部屋の中に入ろうとするが、レヴィの殺気に飲み込まれ、入ることができない。
「何をしている准将! 早く来い! 全滅するぞ!」
イシュタルはガイアを怒鳴り付け、左手でムゲンに触れる。
「憤怒のレヴィ、こうなったら奴はそう簡単に止まりはしない……貴様、レヴィとなにか因縁でも?」
「ある。大いに」
イシュタルの力で全回するムゲン。何とかガイアもイシュタルたちと合流する。
怒りに膨れ上がるレヴィ。彼から感じられる気配はまるで理性を吹き飛ばした獣だった。
魔の血族、セルバのその言葉が脳裏をよぎる。今なら説得力がある。目の前にいるのは兵士ではない。
「話は後だ。とにかく今はレヴィを止める。もちろん、三人掛かりでな」
三人は剣を抜き、レヴィに向けて構える。
「よいか、殺す気でいけ。でなければ……殺されるぞ」
イシュタルが二人に釘を刺す。
レヴィかムゲンめがけて突進してくる。準備が整わないまま、迎え撃つ三人。
「来るぞ!」
憤怒のレヴィ。怒りの化身が襲い来る。




