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スティールスマイル  作者: ガブ
第六章 神々との戦い
259/621

episode 259 「ゼロの決断」

ゼロは神殿の中に案内された。中にはミハイル、ミゲルの他に二人の女神官が待ち構えていた。その二人もミハイルと同様に顔から表情が消え去っており、その整った顔立ちと相まって人形のようだった。


「あなたが噂のゼロですね」


そのうちの一人が口を開く。


「……そうだ」


ゼロは警戒心を絶やさない。


「私はミシェル。神官です。よろしくお願いします。」


ミシェルと名乗った神官はゼロに手を指す出す。握手を求めているようだ。周りを神官たちに囲まれている手前、ここで断るわけにもいかず手を握る。


冷たい。とても冷たい手だった。だがそんなことはどうでもいい。心はとても暖かかったからだ。警戒心や不安感などすべて吹き飛んだ。


(勘違いするな、これはこの女の加護だ。気を許すわけには……)


ゼロは必死で自分の平穏な感情と戦った。だが、ミシェルの加護はゼロの戦いを嘲笑うかのように優しくゼロを包み込む。



「いつまで握っているんです?」



ミシェルの隣にいた女性の声で、ようやく我にかえるゼロ。


「いやらしい……本当にこの男を勧誘するんです?」


隣の女性はミシェルよりは感情があるようだ。それでも目は虚ろだが。


「済まない」


ゼロはとても名残惜しかったが、ミシェルから手を離す。再び負の感情がゼロの元に帰ってくる。


(完全に支配されていた……)


ゼロは目の前の女を睨み付ける。



「今度は敵意丸出しって感じです?」


またしても隣の女性がゼロに苦言を呈す。



「よさないかミラ。仲良くしたまえ」


その様子を見てミゲルが二人の間に割ってはいる。ミラは納得していない様子だったが、しぶしぶミゲルに従う。


「……仕方ありません。言っておきますが、ミシェルを狙おうなんて考えても無駄です。ミシェルは神に身も心も捧げているのですから」


ミラの言葉は本当だろう。そしてそれは決して精神的な話ではない。言葉の通りなのだろう。



「さて、そろそろよろしいか?」



ミハイルがゼロに話しかける。


「なんだ?」


良くない予感を感じとるゼロ。


「君は神のお力に触れている。少なからず御加護を受けているのでしょう。ですがそれではまだ弱い」


ミハイルの圧がゼロにのしかかる。


「俺にどうしろと?」


その言葉を待っていたようにゼロの肩に触れるミハイル。



「君に力を与えよう。だが、それには条件があります」

「条件?」


ミカエルは人差し指を立てる。


「一匹、滅してほしい悪が居ます」



ミカエルは一枚の紙をゼロに差し出す。そこには何も写っていたかった。


「なんの真似だ?」


わけが分からないゼロはミハイルへの警戒を強める。


「おや、これは失礼しました」


そう言ってミハイルは自らの手首を切り裂く。そしてそこから溢れた血を紙に塗りたくっていく。


「存在することすら世間に知られてはなりませんので」


だんだんと紙に人の形が浮き出てくる。真っ赤に染まった紙に一人の女性が写し出される。


「……誰だ」

「色欲の魔女、メディア。我々神の使いが滅ぼすべき悪です。これを殺せば君に神の力を与えましょう」


ゼロはその紙を胸のポケットへとしまう。


「場所を教えろ」


ゼロに断ることは出来なかった。そのつもりもない。レイアを見つけ出すのには力が必要だ。そしてその力は目の前にある。相手が何者だろうとも、この機会を逃すわけにはいかなかった。



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