episode 249 「序章」
魔女。それは二千年前、この世界を滅ぼさんと現れた存在。
それは突然現れた。予期できた者は居らず、たとえそれが出来たとしても関係の無いことだった。
それは正に抗うことのできない自然現象のようだった。突如現れた一体の存在。見た目は人となんら変わらない。今思えばあれに形など存在しないのだろう。あれは恐怖そのものだった。
二千年前。
世界は今と何も変わらない。神と呼ばれる偶像にしがみつき、日々を懸命に生きていた。争いは絶えなかったが、人々はそれを乗り越える強さを持っていた。
そう、あの日までは。
最初に異変に気がついたのは商人たちだった。ある日を境にある方面からの商品が一切届かなくなったのだ。最初は事故でも有ったのかと考えたが、やがて商品が届かない地域が増えていくにつれ、尋常ではない何かが起こっているのでは? と考え始めた。
魔女が最初に現れたのは今でいうところのセルフィシー王国の辺りだった。当時は国の境など存在せず、王と呼ばれる者も居なかった。
が、魔女が現れた瞬間、その衝撃によってセルフィシーだった場所は滅びた。何万という人間が、死すら実感できずにこの世を去った。
魔女は誰もいなくなった死んだ土地を一歩一歩進み始める。歩む度に地面が悲鳴を上げ、世界が啼く。
しばらくしてセルフィシー地方の消滅は人々の耳に入る。初めは大規模な地震か何かが発生したのではと語るものもいたが、他の地方がどんどん消滅していくごとにそんな考えは捨てた。生き残ることに必死だったからだ。
人々は神に祈った。それしか出来なかったからだ。
たった三日。魔女が世界を壊すのには十分すぎる時間だった。そしてそれと同時に世界の九割の人間が土へと還った。
生き残った一割弱の人間たちは地下に身を隠した。そしてもぐらのように細々と暮らす。
「納得できるか! こんな生活!」
地下暮らしにしびれを切らしたのか、一人の青年が声を上げる。見た目は十五、六といったところか。生き残った人々のなかでは年上の方だった。なぜか生き残ったのは子供ばかりだったのだ。
青年の言い分はもっともだった。自然災害ならおさまるのをまてばいい。だが外で人間を滅亡させようとしているのは化け物だ。意志があるのかどうかもわからない。いつまでこうしていればいいのだろう、もしかしたら死ぬまでこのままなのでは? そもそもいつまで死なずにいられるのか? 不安と恐怖以外の感情しかわかない。
だが青年の意見に賛同するものは誰も居なかった。賛同したところで無駄なことは、子供ながらにして実感できていたからだ。
抗うことはできない。そう誰もが思っていた。と、思っていた。
いつの世界、いつの時代にも恐怖に立ち向かう事ができる者は存在する。のちに十闘神と呼ばれる子供たち、彼らのように。
「行くぞ、世界を取り戻しに!」
一人の男の子供が叫ぶ。それに答える子供たち。
「「「「「「「「「「応ッ!!!!」」」」」」」」」」
向かうは地上、魔女の元。欲するは勝利、皆の自由。たとえ手足がもげようとも、たとえ何人殺されようとも、彼らは進むことをやめない。たとえ最後の一人になったとしても。




