episode 248 「レヴィ」
ガイアはセルバの背中の上で目を覚ました。
「……どこへ向かっている?」
セルバは移動していた。目の前をものすごいスピードで移動しているムゲンを追いかけているようだ。
「帝都だ。ムゲンがイシュタルに呼ばれた様だからな」
セルバが答える。ガイアはセルバの背中から飛び降り、すっかり完治した足で走り出す。
(あの薬、凄まじいな。もうどこも痛くない)
聖遺物に驚きを隠せないガイア。
「成るほど、元帥の指示か。だがムゲンが帝国のために行動するとはな、どういう心境の変化だ?」
帝国三剣士という称号を持ちながら、帝国軍には属していないムゲン。軍への勧誘を頑なに拒んでいるムゲンがイシュタルの招集に応じたことに違和感を覚えるガイア。
(元帥、我々の任務失敗を感知してのことだろうか……)
不安にもかられる。
「もちろん目的は他にある。帝国には倒さなければならない敵が存在する。こちらから出向けば警戒されるが、招かれればそれがないからな」
セルバが答える。
「敵だと? 我々帝国軍に裏切り者が存在するとでも? 冗談じゃない。我々は帝国に命を捧げているのだぞ」
熱くなるガイア。セルバの発言に腹をたてているようだ。
「確信もある。我々は何年も前からその男を抹殺すべく計画をたてていた。そして今、最高のタイミングを迎えたというわけだ」
セルバは走りながらガイアの肩に手をのせる。
「……信じられん。どこの誰だ。俺が直接会って確かめる」
殺気を高めるガイア。そんなガイアを笑い飛ばすセルバ。
「はっはっは! そう簡単に会える相手じゃない。タイミングを計っていたといっただろう?」
セルバの笑いに怒りよりも不安が押し寄せるガイア。
「まさか……元帥殿が?」
ガイアの驚愕の表情になにも答えないセルバ。
「話はここまでだ。行けばわかる。それよりも無駄話をしている時間は無いぞ。早くしなければムゲンにおいていかれる」
話に夢中になっていたガイアはその言葉でようやく前を見る。すると先を走っていたムゲンは遥か彼方を走っていた。
「くそっ!」
さまざまな不安を抱きながらガイアは先を急ぐ。
(レイア、無事なのか……)
レイアの安否を気にするガイア。出会ってからさほど時間は経っていないが、彼女の存在はガイアの中でかけがえの無いものになっていた。
(頼むぞ戦僧、頼むぞヴィクトル)
帝都モルガント、帝国軍本部。その大広間にイシュタルは鎮座していた。その近づき難い雰囲気に兵士たちは困惑していたが、そんな中一人の兵士がイシュタルに近づく。周りの兵士たちはそれを見て驚く。その行為にではなく、その人物に対して。
「レヴィ、か……」
イシュタルは現れた人物に視線を送る。レヴィ、軍の人間だ。階級はイシュタルと同じく、元帥である。
「どうしたイシュタル。ここでそんなオーラを放っていては他の兵士たちが萎縮してしまう」
イシュタルは一人にしてくれと言わんばかりに話を無視するが、その態度をレヴィも無視する。
「ジャンヌ中将、ガイア准将の件は聞いた。残念な戦力を無くしたな」
さほど残念そうな様子もなく、レヴィが語る。その言葉は聞き流せないイシュタル。
「ジャンヌもガイアも死んではおらん」
レヴィを睨み付けるイシュタル。それにはもちろん敵意が満載に込められているのだが、レヴィに臆する様子は一切見られない。
「そうか。だといいな」
レヴィはそう言い残してその場を去る。レヴィが去ってからもしばらくイシュタルは考え込んでいた。
(ジャンヌ、ガイアは生きている。だが、なんだというのだこの胸騒ぎは……何が始まろうとしているのだ……)
イシュタルを含め、それはごく少数だった。世界の変化に気がついている者は。




