episode 246 「あらたな神官」
ミハイルを始めとする神官たちは車イスの青年に興味を引かれていた。敵意は感じない。悪意も感じない。だが、心の内が探れない。
ここに助けを求めに来るものは決まっている。偉大なる神、ミカエル様の恩恵を受けようとするものたちだ。そしてその恩恵を受けている我々神官に会いに来るものたちだ。だが、彼は違う。
神官の内の一人がゼロに近づく。それに気がついた老人はふかぶかと頭を下げ、ゼロもその男を警戒する。
(敵意、いや恐怖か? 我々の位がわかるか)
男は俄然ゼロに興味を示す。
「こんにちは。私はミゲル。神官だ。と、いっても君は既に気がついているかな?」
ゼロに好戦的な目線を送るミゲル。
「俺になんのようだ?」
ゼロの返答に心踊らせるミゲル。再び挑発しようと言葉を選んでいるとゼロの足から感じられる気配に戸惑う。
(これは……まさか、いや確かだ。微かではあるがミカエル様の気配……一体この男は、なんだというのだ)
ミゲルの険しい表情を見た老人はゼロの頭を掴み、下げさせる。
「これ! 神官様に何て言葉遣いを! 失礼しました神官様」
そのまま老人はゼロを押してその場をそそくさと離れる。
神官たちの元に戻るミゲル。他の神官は不思議そうにミゲルの表情を見つめる。
「ミゲル。何があったのですか?」
ミハイルが尋ねる。
「あの男、ミカエル様の気配をまとっていた」
その言葉に、感情を無くした神官たちの顔に明らかに動揺が表れる。
「もしかしたら」
ミハイルが口を開く。
「もしかしたら彼は新たなる神官になれるかもしれません」
神官たちはミハイルの言葉に頷き、神殿を去ろうとするゼロを見つめる。
「必ずそうなるでしょう。神のお導きなのですから」
メイザース大神殿、そこで大司祭メイザースは笑いをこらえきれずにいた。
「きゃはは! オルフェウス兄さんも面白い駒を見つけたんだね! うんうん殺し屋! それも凄腕の!」
メイザースはなにもない空間に話し続ける。
「僕? 僕もいいものを見つけたよ! 水の力を持った女の子さ! それに人間にしてはとっても可愛いんだ!」
外見通り無邪気な子供のように話すメイザース。
「でもいいの? たしかそのアーノルトってやつ、マリン姉さんが育てたんじゃなかったっけ?」
僅かな沈黙の後、メイザースはよりいっそう大きな声で笑う。
「きゃはは! それもそうだ! 姉さんに駒なんて必要ない! そもそも僕たちだって必要ないよ! 姉さんに敵うやつなんていやしないんだから!」
メイザースは何者かと話し終えると、すぐさまレイアをとらえている祭壇へと向かう。
「もっともっと育ててあげるよ」
そう言ってメイザースはとてもその外見には似つかわしくない邪悪な笑顔を見せる。
「助けは来ない。むしろ来ない方がいいんじゃないか? 目の前でそいつがなぶり殺しにされるのを見なくて済むんだから」
気絶しているレイアの髪をやさしく撫でるメイザース。
「ま、もっともくそガキどもを殺したあとは人間どもも皆殺しにするんだけどね」
レイアに抱きつくメイザース。
「あと四人。そうしたらみんなで行くからね、神様。きゃはは! きゃはは!」
耳障りな笑い声が神殿に響き渡る。




