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スティールスマイル  作者: ガブ
第五章 最後の戦い
244/621

episode 244 「オルフェウス」

「魔女……だと?」


イルベルトの言葉に疑問を覚えるアーノルト。


「そう、魔女だ。その子孫が我々にはついている」


アーノルトの驚愕した表情に驚きつつも話を続けるイルベルト。


「……」


アーノルトの脳裏にはすぐさまマリンが浮かぶ。確かにその魔術の腕は魔女と呼ぶにふさわしい。見た目も魔女そのもので、アーノルトが彼女と出会った二十年前からその姿は変わらない。


「にわかには信じられんな。十闘神物語に登場する魔女のことを言っているのだろうが、それはフィクション……現実の話ではない」


アーノルトはイルベルトの話を否定する。


「フン、まあそういう反応をするだろうな。俺はわかっていたさ」


アーノルトにビビりつつも、横から口だけは挟むパーシアス。それを呆れた目で睨むリラ。


「もちろん話だけで信じてもらおうとは思っていない。ついてこい」


イルベルトは亜空間を作りだす。


「いいだろう。確かめさせてもらう」


アーノルトは恐れることなく、その空間へと入っていった。




暗い暗い部屋。亜空間を抜けた先には何もなかった。図られたか、一瞬そう考えるアーノルトだったが、すぐにその考えを改めることになる。


「!!」


今までなぜ気が付かなかったのだろう、それほどの気配がアーノルトを襲う。それは決して敵意や殺意などではない。圧倒的な存在感、そう言い表すにほかなかった。



「お前がアーノルトだな? よく生きていたね。ミカエルに会ったんだろう?」


どこからともなくアーノルトに語り掛ける声が聞こえる。これだけの存在感がありながら、どこから話しかけられているのか全く分からない。まるで空間そのものに語り掛けられているようだ。



「……そうだ。お前が魔女の子孫か?」


なんとなくそう答えたアーノルトだが、次の瞬間、自らの行動の軽率さを思い知らされた。



「お前? このミジンコが……俺に向かってお前だとォォォォォォォ!」



空間が激しく収縮する。体が圧縮され、骨がきりきりと悲鳴を上げている。


「かッ」


悲鳴にもならない声を上げるアーノルト。抗うことなど到底できない。いつ訪れるかもわからない死の恐怖に全身が支配されていく。


アーノルトの頭蓋骨が砕ける直前、空間の収縮は止まる。


「はあはあ」


今まで感じたことがないほど生を実感するアーノルト。


「お前がマリンの知り合いでなければ、今頃チリと化していただろうな」


(やはり、マリンは……)



「聞かせていただきたい、あなたの名は? そして魔女の子孫とは?」


アーノルトは膝まづき、空間に質問する。


「質問が多いな。強欲な奴め。まるでヘルメスだな」


アーノルトは感情を押し殺す。逆らってはいけない。感情を悟られてはいけない。ここで死ぬわけにはいかない。


「まあいい。我が名はオルフェウス。偉大なる支配者である母の次男だ」


脳に響いてくるその言葉をすぐに受け入れることができないアーノルト。




(次男……だと? 母だと? 母とは何だ? 魔女のことか? 次男とは何だ? 何人もいるということか?)


アーノルトの中にさまざまな憶測が生まれる。そのすべてをオルフェウスに読まれてしまう。


「そう、お前の考えている通り、母の子供は俺一人じゃない。お前のよく知るマリンも含め、この世に七人潜んでいる」



それを聞いたアーノルトの心情は読むまでもなかった。



「マリンが……魔女の血族……」



空間に存在していた酸素がどんどん薄くなる。


「姉さんを呼び捨てにするなよ……こっちだって殺さないように痛めつけるのは骨が折れるんだよ。それに魔女だって? 母を愚弄しているなら本当に殺すぞ」


アーノルトの耳にオルフェウスの言葉が届くことは無かった。それよりも先に気絶してしまったからだ。



「まあいい、見込みはある。ミカエルと対峙して生き残っただけはあるな。何れにせよお前はもう俺の駒だ。働いてもらうぞ……この世界のために」



亜空間から強制的にはじき出されたアーノルトを受け止めるイルベルト。


「やはり生き残ったか」


嬉しそうなイルベルト。


「当然だ。我らも生き残ったのだからな」


気絶するアーノルトを嬉しそうに見つめるパーシアス。


「でも、本当に可能なのかしら? 十闘神を殺すなんて」


リラは心配そうに下を向く。



「可能なわけがない。だがやらなければ……俺達にはあとがない。生き残るためには強者に付き従うしかない。今までもそうやって生きてきただろう?」


イルベルトの顔は決して明るくはなかった。むしろ自殺志願者のように暗かったが、彼らにとってイルベルトだけが道しるべだった。たとえそれが地獄へ続いているとしても進むしかない。それが自らの運命なのだから。














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