episode 239 「始まりの鼓動」
「む……」
「あ、リーダー! 無事っすか!?」
メイザースによって吹き飛ばされたヴィクトルが目を覚ます。
「シェイク、お主にはこれが無事なように見えるのか……」
ヴィクトルは額から大量の血を流していた。
「レイアさんは……メイザース大司祭様はどうしたのだ?」
ヴィクトルの質問には誰も答えない。嫌な予感が彼の頭をよぎる。
「連れ去られたのだな」
ヴィクトルは重たい体を無理矢理起こす。またしても大量の血が流れる。
「だ、ダメっすよリーダー! 動いたら血が……」
よろけるヴィクトルの体を支えるシェイクとドエフ。
「駄目なのだ……レイアさんを助けなければ……このままではレイアさんまで我々と同じ目に……」
ヴィクトルはふらふらしながらメイザースが消えた扉の方へと歩いていく。
「リーダー! 冷静になってくださいっす! 大司祭には敵わないっすよ! たとえあいつ以外の全然信者が束になったとしてもっす!」
シェイクは必死になってヴィクトルを止める。ドエフも無理矢理ヴィクトルを持ち上げ、動きを止めさせる。
「今……あの兵士は居ないのだ。彼女の助けになってあげられるのは、我々しか居ないのだ!」
ヴィクトルは大声で叫ぶ。
「リーダー……」
ヴィクトルの真剣な目を見つめるシェイク。いつもは頼りないリーダーが、今ならなんだかやってくれそうな目をしている。
「わかったっす! レイアさんを取り戻すっす!」
覚悟を決めるシェイク。ドエフも頷いている。
「お前たち……」
ヴィクトルは顔を赤らめ、涙を浮かべる。
「よし! 行くのだ! そしてレイアさんを妃にするのだ!」
メイザースはレイアを祭壇に横たわらせていた。
レイアの体は祭壇から発せられた光に包まれていく。その光景にうっとりと見とれるメイザース。
「ああ、やっぱりママのいった通りだ。人って素晴らしい。どんな困難でも打ち砕く力を持っている。そしてとてつもなく無知で、愚かで、それ故に可愛らしい」
メイザースは両手を大きく広げる。
「さあ、新たな戦士の誕生だ! 盛大に盛り上げよう! 神……いや神様もどきに一撃を与えるため、私とともに進もうではないか! ハハハハハ!」
メイザースのかん高い笑い声が狭い部屋に響き渡る。
「待つのだ!」
メイザースの笑い声をかき消すように扉が開く。
「ヴィクトル・エドガー。馬鹿は死なねば治らないと言うが、どうやらそれはあながち間違いでもないらしい。勉強になったよ」
ヴィクトルたちの方へ振り向くメイザース。
「レイアさんを返すのだ!」
「この気配は……」
十闘神アテナ。テノンを創ったとされる神。その神がある気配に気をとられていた。
「間違いない……メイザースだ。懲りずにまた兵隊を作り上げたというわけか」
アテナは剣を握りしめる。
「スサノオの話ではカグラにはマリンが出現したらしい。今になって動き始めたのか? 忌々しき血族どもが」
得たいの知れない力がアテナの周りで渦巻く。その力は鎧となってアテナの体にまとわりつく。
「摘むか。世界のために」
彼女の中に、久しく抱かなかった戦いの鼓動が鳴り響く。




