episode 237 「大神殿」
ヴィクトルはため息をつきながら、ポーとセルバに置き手紙を書く。
「そんなに嫌なんですか?」
異常なほど大司祭に会うのを嫌がるヴィクトルたちに疑問を抱くレイア。
「あのお方は悪魔なのだ……」
ガタガタと震えるヴィクトル。ヴィクトルだけではない。シェイクはもちろんのこと、ドエフも巨体を揺らしている。
「……やっぱり行くのやめないか?」
「もう遅いっす……」
指を指すシェイク。その先を見つめるヴィクトル。そこには既に神殿を元気よく飛び出すレイアの姿があった。
「むぅ……行き先も知らないだろうに!」
急いでレイアを追いかけるヴィクトル。その顔は先ほどまでのうなだれている顔よりも、子供を心配する親のような顔になっていた。
ヴィクトルの話によると、大司祭がいるのはテノン神殿全てを取りまとめる大神殿にいるらしい。
「そこまでどのくらいかかるのですか?」
「早ければ今日、遅ければ一生たどり着けん」
意味不明なことを言うヴィクトルを睨み付けるレイア。
「む、冗談を言っているのではない! 大神殿は加護によって守られている。邪悪な心の持ち主が近づくことができんようにな」
「……まさか、わたくしが邪悪な心を持っているとお考えですか?」
レイアの言葉に顔がひきつるヴィクトル。
「……」
無言でぽかぽかヴィクトルを殴り付けるレイア。一通り殴り終えるとぷんぷんと先へ進んでいく。
「じゅ、充分邪悪ではないか!?」
ヴィクトルはシェイクとドエフに同感を求めるが、二人は目をそらす。
一日、二日と歩き続けるが、依然として大神殿にはたどり着かない。幸い道中にはたくさんの神殿があったため、食べ物と寝るところには困らなかったが、レイアの心はどんどん疲弊していった。
(わたくし、本当に邪悪なのでしょうか……)
頭を抱えるレイア。その様子を影から見つめるヴィクトルたち。
「リーダー。レイアさん本気にしてるっすよ、あの嘘」
「むぅ。ほんの冗談のつもりだったのだ」
シェイクがレイアのもとに近づこうとする。その手をあわてて掴むヴィクトル。
「何をする気なのだ!」
「何って、本当のことを伝えるんすよ」
両手でシェイクをつかみ、引き寄せるヴィクトル。
「だ、だめだ! そんなことをしてはまた殴られるのだ!」
「観念してくださいよ……みっともないっす」
「だめなのだ!」
ひ弱なヴィクトルを引きずってレイアの前へといくシェイク。
「レイアさん」
「どうされたのですか?」
シェイクが話しかけると、レイアはやつれた顔をあげて答える。
ヴィクトルがシェイクを上目遣いで見つめる。だがシェイクは心を鬼にし、レイアに真実を伝える。
「レイアはさん、実は嘘なんす」
「……え?」
レイアはポカンとしている。
「だから嘘なんす。邪悪な心なら入れないなんてことは無いんすよ」
「……」
レイアはまたしても無言になる。
「ひぃ!」
身構えるヴィクトル。しかしレイアの鉄拳は飛んでこない。
恐る恐る目を開けるヴィクトル。
「そうですか」
レイアはただ一言そう呟く。急いでレイアから離れるヴィクトル。
「どういうことなのだ」
陰からレイアの様子を眺めるヴィクトル。
(ここで怒ってはいけない……きっとこれはわたくしが邪悪では無いことを証明するテストなのです)
にっこりと笑って見せるレイア。
「ひ、ひぃ! 笑っているのだ!」
その笑顔に恐怖を覚えるヴィクトル。レイアの笑顔、そしてヴィクトルの恐怖は次の日大神殿に到着するまで続いた。




